世界中で大人気の食用魚・サバ。我が国でも干物やしめ鯖などがスーパーで当たり前に売られていますが、実は今その多くが「ノルウェー産」のサバで作られているのをご存知でしょうか。
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日本のサバは「ノルウェー産」?
日本の食卓を代表する惣菜魚であるサンマやサケの不漁が、ここ数年続いています。これらの魚が高値になり庶民向けではなくなるなか、変わってその地位に収まろうとしているのが「ノルウェー産のサバ」です。
ノルウェーから輸入されて日本に入ってくるサバは、はじめは干物や丸の冷凍のみでしたが、人気の高まりとともに昨年からは生サバの状態での空輸もスタート。今や国産のもの以上に消費されているとも言われています。
ノルウェー産サバの日本への輸出が始まったのは40年以上前。ノルウェーの機関が発表しているデータによると、昨年輸出された同国産サバ約38万9000トンのうち、半分くらいが日本向けだといいます。日本でサバと言えばいまやノルウェー産、国産はサバじゃないと言われるくらい浸透するかもしれない、という声も聞かれるそうです。
なぜノルウェー産が人気?
ノルウェーのサバは日本近海に生息するマサバやゴマサバと近縁の「タイセイヨウサバ」というものになります。流通現場ではノルウェーサバと呼ばれることも多いようです。
タイセイヨウサバをマサバやゴマサバと見比べたとき、最も目が行くのがその大きさの差。国産のサバ類と比べ、明らかに大きく太っているのがわかります。
サバは大きいほど脂が乗り価値も上がるのですが、人気・価格ともに高くなる500gラインを超えるサバは、国産のマサバやゴマサバの場合、水揚げのうち10%以下しかありません。その一方でノルウェー産のタイセイヨウサバではなんと30%を超えることも普通だそうです。
もちろん脂ののりもとても良く、脂質含有率が30%に迫る個体も当たり前だといいます。国産のサバでこの水準に届くものはほとんどなく、これらの理由から国産サバよりノルウェー産のほうが人気になるのは当然だといえるでしょう。
国産サバは小型化の傾向
近年我が国の水産の現場では、国産のサバの品質低下が叫ばれています。水揚げされるサバの個体数は、不漁が問題になったひところと比べるとはるかに増加しているのですが、その一方で1匹1匹の小型化が著しいのです。体長が小さいことに加えて脂の乗りも悪く、細くて頼りないため「ローソクサバ」という蔑称で呼ばれることも。
サバが小型化した理由はまだはっきりとわかっておらず、海洋環境の変化によるサバの餌になる小魚が海洋環境の変化で減少している、海水温が変化して大型サバの回遊ルートが変化しているなどが理由として言われています。このようなサバはかつては捨て値で肥料などに回され、その後はサバ水煮缶のブームもあり価格が上昇しましたが、それでもノルウェーサバと比べると安価にしかなりません。
国産サバはアフリカに輸出
しかし、この小型で安価な国産サバはなんと今、その多くが「アフリカ」に輸出されているといいます。
アフリカの多くの国では、サバは重要な海産物のひとつ。かつては旧宗主国である欧州各国から輸入し、需要を賄っていました。しかし欧州でサバの資源管理が行われるようになり、それが成功してノルウェー産を筆頭に大型化・高価化が当たり前になりました。すると、まだ貧しい国も多いアフリカ諸国は、欧州のサバを購入することができなくなってしまったのです。
そこで彼らが目を向けたのが、日本産の小さくて安価なサバ。魚を生食することがほとんどないアフリカではサバの大きさはそこまで気にされず、日本産でもその需要を満たすことができるのだそうです。
結果として現在、日本人はノルウェーのサバを食べ、アフリカの人々が日本のサバを食べるという奇妙な構図ができています。金は天下の回りものといいますが、サバもまた天下の回りものと言える魚なのかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>