波間をふわふわ漂うとらえどころのない生き物・クラゲ。水族館では人気の生き物ですが、実は漁業上は非常に厄介な存在です。このクラゲを自動的に駆除するロボットが開発中とのことです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
クラゲ駆除ロボット
広島工業大や東京大などの研究チームが「クラゲを駆除する水中ロボット」の開発を進めていることを発表し、話題となっています。
開発が進められているのは、クラゲの一種「ミズクラゲ」の駆除用ロボット。このロボットは水中において自動で航行し、同時に超音波センサーでクラゲを探します。目標物を見つけると近づき、さらに取り込んだ画像をAIで分析してクラゲかどうかを判別することができます。
ミズクラゲであることを確認すると、専用のホースで吸い込み、内蔵されたプロペラによって粉砕します。現在は人造クラゲなどで試験を行っている段階ですが、2024年度には瀬戸内海などで実証実験を計画しているそうです。
なぜそんなロボットが?
しかし、なぜわざわざそのようなロボットを開発しているのでしょうか。
実はここ数年、日本近海ではエチゼンクラゲやミズクラゲがしばしば大量発生しており、それによる漁業への悪影響が問題となっています。体組成のほとんどが水分であるクラゲは非常に重量があり、漁網に入るとその重みで網を破ったり、一緒に水揚げされる魚を潰してしまうのです。
また、刺胞動物であるクラゲは触手に刺胞毒を持っており、網に入ったクラゲを処理する際に漁師がクラゲに刺されてしまう事故も起こっています。ミズクラゲのように毒が弱い種でも、漁獲物に混ざり込んだクラゲを選別除去する手間は大変厄介です。
クラゲと言えば中華料理の食材としても知られており、そのような利用法がないとか……と思う方も多いでしょう。しかし残念ながら食用に加工されるものの多くは「ビゼンクラゲ」という種で、ミズクラゲやエチゼンクラゲは触手部分が小さいために食用価値が低く、販売しても採算を取ることが難しいのです。
このような理由から、クラゲは水揚げせず、海中にある段階で破壊するのが漁業被害を防ぐ上で一番効率が良いのです。
エチゼンクラゲ対策にも期待
「クラゲ駆除ロボット」の開発チームによると、将来的にはより大型のエチゼンクラゲを駆除するロボットも開発したいとのことです。おそらくこの「駆除ロボット」が目指す本命はこのエチゼンクラゲなのでしょう。
エチゼンクラゲは世界最大級のクラゲで、傘の直径2m、重さ200kgに達することもあります。毎年、中国近海で発生したものが海流に乗って日本近海へ流されてきます。
エチゼンクラゲは近年とみに発生量が増えており、2021年には島根県の定置網1つに1000匹が入ることもありました。過去最大の発生が見られた2009年には、全国での漁業被害額は約100億円にも上ったと見られているのです。
あまりに大きいクラゲなので駆除ロボットの開発は難航すると思いますが、全国の漁師がその実用化を切望しているのではないでしょうか。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>