直径1mを超える超巨大クラゲ「エチゼンクラゲ」が、今年も日本海側各地に押し寄せています。漁業における厄介者であるこのクラゲですが、食用にはできないのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
北陸のエチゼンクラゲ
日本海沿岸各地で9月に入り底引き網漁が解禁されていますが、福井県の沖合の漁場ではいま、大型のクラゲである「エチゼンクラゲ」が大量に網に入ってしまい、問題となっています。
今月7日、越前岬から30km沖合で引き上げられた網の中は、大量のエチゼンクラゲで満杯の状態。一緒に捕れた魚たちを押しつぶし、所狭しと詰まっていました。
8日にはすでに県の対策会議でも被害状況が報告されましたが被害は相次いでおり、若狭湾沿岸のおおい町では定置網に800匹のエチゼンクラゲが入っているのが確認されたそうです。
福井県によると、今後1カ月は山陰地方方面から、大量のクラゲが福井県沿岸各地に流れ着く恐れがあるといいます。(『エチゼンクラゲ大量発生 漁業被害相次ぐ(福井県)』FBC 2021.9.8)
エチゼンクラゲはなぜ厄介?
エチゼンクラゲは、傘の直径が1mを超える非常に大きなクラゲです。日本海側に多く生息しており、夏になると対馬海流に乗って日本近海に現れます。一夏かけて日本海を北上、最も水温の低下する2月ごろになると死滅します。
1匹だけでも重さは100kgを優に超え、大量発生すると重さで漁網が破れたり、魚が傷つくといった被害が起こります。2009年に大量発生を起こした歳には網が破損したり、採算が合わず漁を打ち切ったりするなど、大きな経済的被害が発生しました。
クラゲが網に入ってしまうと、選別機にかけてクラゲだけ取り除く作業などが必要になります。また他のクラゲ同様触手には毒があるため、作業時にはフェースマスクで完全防備しなくてはならず、夏の暑い時期には大変な重労働となります。
いま被害の大きい福井県では、11月からの越前がに漁を前に、漁師たちの間に不安が広がっているそうです。
エチゼンクラゲの食味
クラゲと言えばその味を思い浮かべる人も少なくないと思います。クラゲは古くから中華料理などで食材とされてきました。エチゼンクラゲは食用にすることはできないのでしょうか。
エチゼンクラゲの近縁種には、ビゼンクラゲ、ヒゼンクラゲなど食材として高級なクラゲもあります。しかしエチゼンクラゲは、クラゲで「一番美味しい部分」といわれ、口当たりや歯ごたえが良い「口腕」の部分が他のクラゲと比べて小さいというデメリットがあります。
また、クラゲの最大可食部である傘の部分も、エチゼンクラゲのそれは脱水すると薄っぺらになってしまいます。そのため他のクラゲと比べると食材としての価値は残念ながら低いそうです。
ウマヅラハギ豊漁に期待
一方、廉価なカワハギとして市場に欠かせない存在である「ウマヅラハギ」が、このエチゼンクラゲを好んで食べることが知られています。そのためエチゼンクラゲが大量発生した年はウマヅラハギの漁獲も増えると言われており、その意味では間接的に我々の食生活に貢献しているといえなくもありません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>