環境に良い、持続的な漁法として世界的にも評価の高い日本の定置網漁。しかしその一方でいま、定置網漁とその他の漁法との間で「摩擦」が発生するかもしれない状況となっています。
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資源管理ができない?
我が国では2020年に「改正漁業法」が施行されました。この改正法の最大のトピックは簡単に言うと「資源管理について『漁獲可能量管理』の形に軸足を移す」ということになります。
漁獲可能量(Total allowable catch、TAC)とは、水産資源の維持のため、指定された魚種について、それぞれの魚種ごとに「捕獲できる総量」を定めるものです。全国でひとつの基準値となっており、これの上限を超えないように漁獲量が管理される必要があります。
しかし、定置網は上記の通り「入るも出るも自由」な漁であり、特定の魚種を狙って漁獲することが難しく、狙っていないものが大量に穫れてしまうということもしばしば起こります。
そのため、TACが指定されているスルメイカやクロマグロといった魚種がドカッと定置網に入ってしまうことがあり、ときにその量が無視できないほど大きくなります。
他の漁との摩擦の可能性
その場合でも獲れたものは漁獲量にカウントされてしまうため、スルメイカの釣漁やマグロの巻き網漁などといった、本来これらの魚介を専門に狙う漁において漁獲できる量が削られてしまいます。その結果、漁業者や漁業者団体間での摩擦が起こる可能性があるのです。
これについて、現状では決定的な解決法というものが存在しません。ただ、魚種判別が可能となる魚探が普及することで、定置網の設置や水揚げの際に注意したり、獲り控えをするようなことが可能となるそうです。現実的に可能な範囲で最善の努力をしていくしかない状況だと言えるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>