マダイもクロダイも味が落ちる初夏に旬を迎える「夏のタイ」とは?

マダイもクロダイも味が落ちる初夏に旬を迎える「夏のタイ」とは?

魚の王様と言われるほど愛される鯛ですが、初夏から夏にかけては美味しくない時期を迎えます。しかしそのような時期にこそ美味しくなる「夏のタイ」が存在します。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

アバター画像 TSURINEWS編集部

サカナ研究所 その他

おしゃれなクロダイ?

様々な釣り方が知られ、全国的に高い人気を誇る釣魚「クロダイ」。広く「チヌ」の呼び名で親しまれています。

そのクロダイの仲間に、ぱっと見は似ているものの、やたらと「きれい」な種類のものがいます。

マダイもクロダイも味が落ちる初夏に旬を迎える「夏のタイ」とは?見た目はクロダイに似ているが……(提供:PhotoAC)

一般的にクロダイは黒みがかった銀白色で「いぶし銀」などと表現されますが、その「きれいなクロダイ」は腹鰭と尻鰭、尾鰭の一部が爽やかなレモンイエローに輝いています。渋さの中に派手な差し色が入る様子はとてもおしゃれです。

キチヌとはどんな魚か

この「きれいなクロダイ」、標準和名はキチヌといいます。チヌと呼ばれるクロダイに似て鰭が黄色いためこのように呼ばれます。釣り人からはキビレと呼ばれることのほうが多いようです。

チヌは標準和名ではありませんが、キチヌは標準和名です。これはキチヌがやや南方系でもともと南西日本に多かったこと、西日本では基本的にクロダイがチヌと呼ばれていることが理由なのではないかと思います。ただし近年、海洋温暖化などにともなって東日本でも生息数が増えていると言われています。

マダイもクロダイも味が落ちる初夏に旬を迎える「夏のタイ」とは?近年は東日本でも生息数が増えている(提供:PhotoAC)

キチヌはクロダイ同様に、沿岸の浅い海域を好み、しばしば川にも入り込みます。生態も互いによく似ていますが、クロダイと比べてやや魚食性が強いという説もあります。隅田川では近年遡上が復活した稚鮎を主食にする個体群もいるそうです。

クロダイより美味しい?

クロダイは釣りの対象として人気が高い魚ですが、身はやや水っぽく、生育環境によってはくさみもあることから、食用魚として人気のタイ類の中では比較的評価の低い魚です。そしてキチヌはクロダイほどの知名度もなく、クロダイの仲間であることから、こちらも「あまり美味しくない魚」と思われているフシがあります。

しかし漁師や釣り人など魚を食べ慣れた人間には「キチヌはクロダイよりうまい」と言われることが多いです。この理由について、上記の通りキチヌがクロダイよりも魚食性が強いからだという人もいますが、はっきりした理由はわかりません。

マダイもクロダイも味が落ちる初夏に旬を迎える「夏のタイ」とは?刺身にしても美味しい(提供:PhotoAC)

キチヌの旬は初夏

更にこのキチヌには、食用にするにあたって非常に有益な点があります。それは「クロダイやマダイと旬が重ならない」こと。

クロダイやマダイなど、タイ類の多くは晩春に産卵期を迎えます。そのため産卵直後の初夏に一番味が落ち、この時期のものを「麦わら鯛」と呼んで敬遠します。しかしキチヌは秋が産卵期であり、そのため初夏頃に身に脂を貯め、旬を迎えるのです。

旬のキチヌは柔らかい身質ながらもしっかりとした旨味があり、脂も乗っていてとても美味しい白身魚です。鰭が黄色いため見た目もよく、食材としてももっと注目されても良いタイであると言えるでしょう。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>