100年前、北海道・日本海側の海では、春先になると浅瀬が真っ白に染まるシーンが見られました。「群来」と呼ばれるこの現象は50年ほどの間見られなくなっていましたが、数年前からまた再び見られるようになっています。
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北海道で「群来(くき)」が観測
北海道の日本海側にあり、ワインやウィスキーの生産でよく知られる余市町。この沿岸で先月27日、春を告げる現象である「群来(くき)」が観測され、話題になりました。
群来とは、産卵期を迎えた二シンの群れが浅瀬に押し寄せ、オスが一斉に精子を放出すること。浅瀬の海藻に産みつけられた卵にオスが放精するため、浅瀬が白く染まります。
ここ数年は毎年ではないものの度々観測されており、今年も広い範囲で白く濁る様子が見られました。海岸には接岸したニシンを釣る人の姿も多く見られたそうです。
復活した「群来」
この群来ですが、実はかなり長い間「春の風物詩」ではなくなっていました。1954年に余市町周辺の沿岸で確認されたのを最後に、数十年もの間観測されなくなっていたのです。
群来がないということはニシンが接岸していないということであり、それはニシンの資源量が減ったことを強く示唆します。長年の乱獲がたたった結果と考えられており、実際に漁獲量も壊滅的に減少していたため、一時期は絶滅も心配されました。
そのため、北海道が主導し1996年から「日本海ニシン資源増大プロジェクト」が始められました。具体的には親魚の放流や漁獲制限などが実施され、その甲斐もあって1999年、実に45年ぶりに群来が発生。それ以来は数年おきに発生が見られています。
ニシンの「精巣」は美味しい
海が白く染まる「群来」が発生するのは、浅い海域に大量のニシンが押し寄せることと同時に、1個体が放出する精子の量が多いことも理由です。ニシンの精巣は非常に大きく発達しており、腹を開くと驚かされるほど。
春に多く漁獲され流通に乗るニシンは、精巣や卵巣を持つものが多いです。卵巣は「黄色いダイヤ」こと数の子であり価値が高い一方で、精巣はあまり価値がないものと考えられており、個体としてもメスと比べてオスは価格が大きく下がる傾向にあります。
しかし実は、ニシンの精巣は知る人ぞ知る美味な食材。鮮度落ちがとても早いのが厄介ですが、新鮮なものであれば、白子の旨さで知られるタイやフグと比べても、個人的には全く引けを取らないと思います。
群来の復活を目指した人々に思いを馳せながら白子を賞味するのも、良いかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>