冬に美味しくなるカキは様々な料理で美味しい貝ですが、食べたあとには必ず「カキ殻」という廃棄物が発生してしまいます。このカキ殻について、いま様々な形で再利用が行われています。
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カキの殻は厄介
いよいよ真冬と呼べるシーズンになり、スーパーの店頭にずらりとカキが並ぶシーンを見かけるようになりました。鍋物や焼き牡蠣などで冬の食卓には欠かせない海産食材・カキ。コロナ禍で高級海産物の消費が落ち込んでいる中、カキは比較的堅調な需要が続いているといいます。
一方で、カキを消費する際避けて通れないのが「廃棄物問題」。というのも、カキはその重量の実に8割が殻であり、カキを食べるにあたりその8割がゴミとなってしまうのです。
殻付きのカキは非常に美味しく、冬になると一度は食べたくなります。しかし個人で購入しようとすると、ゴミのことを考えてどうしても二の足を踏んでしまいがちです。
しかし今、そんな厄介者であるカキの殻を用いて作る「ビール」が話題となっているようです。
カキ殻でビールが美味に?
日本三景の一つとして知られる天橋立。海と入り江を分ける砂州と松原が美しいこの名勝で、いまカキの殻が問題となっています。
天橋立の砂州によって外界と隔てられた湾の中では、戦時中に食料確保のためにカキ養殖が始められました。現在では養殖事業は行われていませんが、生活排水が流れ込み湾内の富栄養化が起こった結果、カキが大増殖し、現在も大量のカキが生息しています。そしてその殻が浜辺に押し寄せてしまい、浜の美観を損ねたり、住民が怪我をすると行った被害が発生しているといいます。
集められたカキの殻は廃棄物として処理されていますが、その量は膨大であり、処理費用が財政負担となります。そのため廃棄物としてではなく、資源としての有効活用策が求められてきたのですが、これにあたり地元企業が「カキ殻を利用したクラフトビール」を開発したのです。
カキの殻は、ビールを醸造する際の「水質調整剤」に用いられます。我が国における一般的な水である「軟水」を、1000℃以上の高温で焼き上げたカキ殻を投入することで、ビール醸造に向いた「硬水」に変えるのだそう。このビールは地元酒販店で販売されており、好評だということです。
様々な用途に活用
全国におけるカキの生産量は、2020年には158,000tにのぼっています。したがって、単純計算で130,000t弱のカキ殻が年間に発生していると考えられます。これらのカキ殻は廃棄物として処理している地域もありますが、一方で各種資材として活用している自治体も少なくないようです。
カキ殻は前記の通り軟水を硬水に変える力がありますが、これはミネラルが多く含まれているから。そのため水質だけでなく、畑などの土壌改善剤として、石灰と同じように利用することができます。そのため雨ざらしにして塩分を抜いたのち、砕いて畑やガーデニングの肥料に用いられています。
また高温で焼成したカキ殻は、液体の濾過材としても用いられます。さらには、カルシウムを必要とする鳥類や爬虫類などのペットの飼料としても欠かせない存在になっているようです。
これらの再利用方法には家庭でも可能なものも多く、一人ひとりがカキ殻を活用していくことで廃棄物問題の解消にも繋げられるかもしれませんね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>