アジの中では少しマイナーなムロアジ類の魚。しかしその中に、見た目がとても美しく、また最近都心でも見かけるようになった「オアカムロ(赤サバ)」というサカナがいるのをご存知でしょうか。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
アジの仲間は多種多様
夏に旬を迎える「マアジ」に代表されるアジ科の魚たち。マアジやマルアジなどのいわゆる小魚(いずれも成魚は40cmを超えますが)から、全長2mに迫る巨大魚であるロウニンアジまで、当科には様々な種類の魚が含まれます。
あまり知られていないのですが、実はブリやカンパチもアジ科の一種。紡錘形をしており、高速で泳ぎ回るブリがアジの仲間というのはちょっと意外な気もしますが、魚の分類というのはときに見かけによりません。
アジ科の魚はその多くに稜鱗(ゼイゴ)と呼ばれる鎧状の鱗があり、これこそがアジ科の特徴であると思いこんでいる人も多いので、それがないブリやカンパチがアジ科と思われにくいのもしょうがないことかも知れません。
実際は稜鱗のないアジ科魚というのは決して少なくなく、どちらかと言うと尻ビレ付け根に2条ある遊離棘のほうがより広汎的な特徴といえるかと思います。これはブリやカンパチにもしっかりあります。
サバみたいなアジ「ムロアジ」
さて、先程文頭で「アジ科の代表はマアジ」と書きましたが、地域によっては決してそうではないところもあります。例えば伊豆諸島などの離島や、外洋に面した場所では夏になると「ムロアジ」というアジがたくさん釣れます。
ムロアジは南方に多く、マアジよりも回遊性が強い種類。全体的に細長く尖った紡錘形をしており、アジよりもむしろサバに似ています。ときに50cmを超えるサイズの大きさも「アジっぽくなさ」の一つの要因のように思います。
マアジと比べると脂ののりが悪いことが多く、味の評価は一段下。釣りの世界でもメインで狙われるということはあまりなく、むしろカンパチやマグロ、シマアジのようなモンスターフィッシュを釣り上げるための「活きエサ」というイメージが強い、少し可愛そうな魚です。それでも、伊豆諸島の特産品である「くさや」の原料となることもあり、食用魚としての重要性は高いです。
首都圏で「オアカムロ」が流通
さて、そんなムロアジですが、水揚げ自体は少なくないものの、鮮度落ちが極めて早いこともあって産地以外で流通しているのを見かけることはあまりありません。しかしその一方で、近縁種の「オアカムロ」という魚を、最近しばしば都心の鮮魚店で見かけるようになりました。
オアカムロはムロアジよりも岸寄りを回遊するらしく、首都圏近郊では相模湾でもよく水揚げされています。そのため刺身用の鮮度を保ったまま入荷、流通することができるようです。
「オアカムロ」はとても美味
こちらも体型はサバそっくりで、3枚におろしたときに見える血合いの大きさはサバすら凌駕するほど。しかしそれ以上に目立つのは層になった皮下脂肪で、寒のマサバすら敵わないような厚みのたっぷりとした脂が乗っています。
身の味も、まるでサバやカツオのようなさっぱりとした酸味と、濃厚な旨味があって、刺身で食べると絶品の一言。外見も中身も、アジよりはサバに近いような不思議な魚なのです。
夏~初冬が旬のこのオアカムロ、知名度が低いせいか非常に安い価格で売られていることが多く、刺身用鮮魚が売られていたら見逃す手はないと思います。ヒレの色が美しく、活造りをするとインスタ映えするのも現代人には嬉しいところ。鮮魚店や市場で見かけたらぜひ食べてみてください。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>