季節を表す言葉が多い日本。初夏の頃を表す「麦わら」という言葉は、生き物の旬を表す言葉としても用いられることが多くあります。
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「麦わら」とサカナ
初夏の季語の一つ「麦わら」。春から夏に移行するこの時期を表す言葉となっています。
日本では昔から、食材の名前に季節を表す言葉を冠して呼ぶという雅な文化があります。魚でも、この時期に取れる魚たちに「麦わら」の名を関して呼ぶことがあります。
その中でも有名なものが「麦わらダイ」と「麦わらイサキ」です。
タイとイサキでは意味が真逆
「麦わらダイ」も「麦わらイサキ」も、初夏~夏にかけて捕られた個体を表します。しかし、この2つの言葉には、まったく逆のニュアンスが込められています。
まず「麦わらダイ」。食通の人なら「桜鯛」という言葉を聞いたことがあると思いますが、「麦わらダイ」は知らない、と言うかもしれません。それはある意味当然のこと。なぜなら麦わらダイは、晩春に産卵を終えたばかりの、一年で最も美味しくない時期のタイを指す言葉だからです。年間を通して高級魚で人気のあるマダイも、この時期ばかりは漁でも釣りでも見向きもされない「ねこまたぎ」とされています。
一方「麦わらイサキ」はまったく別。旬を迎え、脂がのって美味しくなったイサキを示します。
ちょうど今の時期に脂が乗り始めるイサキは夏の魚の代名詞ともいえ、大きく太った1kgオーバーの個体は魚の中でもトップクラスの美味。磯魚ながら臭みもなく、関東周辺では塩焼きにして最も旨い魚の一つとして尊ばれています。
もしあなたが「食通」「魚通」を名乗りたければ、これらの言葉だけは絶対に間違えてはいけないでしょう。
魚以外もある「麦わら」
麦わらの名を関したものは魚以外にもあります。例えばスルメイカ。1年を通して漁獲され流通する日本で最もポピュラーなイカですが、身がやや固く、ケンサキイカやヤリイカと比べると多少食味評価が低くなってしまっているところがあります。
しかし、初夏の時期に採れる幼体のスルメイカは身が柔らかく、生体よりも食味が良いとされ、鮮魚や釣りの対象としても非常に人気があります。これを「麦わらイカ」あるいは「ムギイカ」と呼び、珍重するのです。
ムギワラエビというものもいます。こちらは通称ではなく正式和名。エビとついていますが正しくはヤドカリの仲間で、日本固有種でありながら、東京湾では2015年に135年ぶりに発見されたという貴重な生物です。(『独特のフォルム…日本固有種「ムギワラエビ」って本当にエビなの?』FNN PRIME ONLINE 2018.9.19)
もちろん食用というわけにはいきませんが、食味はどうなのでしょうか。個人的にはとても気になります。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>