延期が決まった東京オリンピック。実は、会場で提供される料理に、日本の魚介類をほとんど使うことができない可能性があることが指摘されていました。何が問題なのか、調べてみました。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
東京五輪で日本産の魚は提供不可?
東京オリンピックの延期が正式に決定しました。未曾有な世界危機の中でやむを得ないことだと感じますが、観光業や飲食業などオリンピック関連売上を見込んでいた業界からは悲鳴が上がっています。食材を提供するはずだった農業・漁業界にも大きな影響がでるものと思われます。
しかし、調べてみると、漁業に関してはそもそもまったく別の危機を迎えていたことがわかりました。というのも、今のままでは東京オリンピックで、日本産の魚介類の多くが提供できなくなってしまう可能性があるのです。
オリンピック食材のエコラベルとは?
いま、世界では漁業資源の需要の高まりと乱獲の懸念を踏まえ、「持続可能な漁業をすることが必要である」という認識が深まっています。それに伴い、天然魚介資源の認証制度であるMSC(Marine Stewardship Council、海洋管理協議会)と養殖魚介資源のASC(Aquaculture Stewardship Council、水産養殖管理協議会)の2種類のエコラベルが制定され、基準を満たしている漁業団体や漁獲された水産物を認証しています。
これらのエコラベル認証を受けた魚介は「持続可能な漁業により水揚げされたもの」だということができるのです。
そして国際的な祭典であるオリンピックでも、「持続可能性の観点」は評価されており、2016年リオオリンピックにて「ホスト国が提供する食材には、MSC、ASCのエコラベル認証を受けたもののみを使用する」という宣言が出されました。(『東京オリンピックで、国産魚を提供できない可能性について』「勝川俊雄公式サイト」2014.2)
2020年東京オリンピックでは、漁業における持続可能性の定義は、以下の4点を満たすものとされています。
①漁獲又は生産が、FAO(国際連合食糧農業機関)の「責任ある漁業のための行動規範」や漁業関係法令等に照らして、適切に行われていること。
②天然水産物にあっては、科学的な情報を踏まえ、計画的に水産資源の管理が行われ、生態系の保全に配慮されている漁業によって漁獲されていること。
③養殖水産物にあっては、科学的な情報を踏まえ、計画的な漁場環境の維持・改善により生態系の保全に配慮するとともに、食材の安全を確保するための適切な措置が講じられている養殖業によって生産されていること。
④作業者の労働安全を確保するため、漁獲又は生産に当たり、関係法令等に照らして適切な措置が講じられていること。 (TOKYO2020公式サイト『持続可能性に配慮した水産物の調達基準』より引用)
これを満たすエコラベルとして、上記のMSC、ASCのほか、日本独自のエコラベルとしてMEL(マリン・エコラベル・ジャパン)、AEL(アクアカルチャー・エコ・ラベル)というものが認証されました。つまり現状では、これら4つのエコラベル認定を受けた魚介類のみが、東京オリンピックで提供可能となっています。
日本でMSC認証を受けた漁業は6つだけ
しかし、これらのエコラベルについて、日本国内では殆ど知られていません。2019年12月時点で、日本国内の漁業でMSCの認証を受けているものは
・ホタテガイ(北海道)
・カツオ(宮城県)
・ビンナガ(宮城県)
・カツオ(静岡)
・ビンナガ(静岡)
・カキ(瀬戸内海)
の6つのみとなっており、ASC認証された養殖魚介類を含めても多いとは言えません。(『MSC認証・ASC認証を取得している日本国内の漁業・養殖場』「サステナブル・シーフード」2019.9)
MEL認証を受けている漁業も、天然魚の漁に関しては北海道の秋鮭定置網漁や福島のサバ巻き網漁など3つのみ、養殖漁業や、流通加工段階での認証を含めても50件足らずとなっており、日本全体の漁業の中ではごくわずかとなっています。
つまり、東京で行われるオリンピックにもかかわらず、このままではそこで提供される魚介類の多くが、輸入品で賄われてしまうという可能性があります。
和食は国際的に高い評価を受けているが・・(提供:PhoteAC)
持続可能な漁業への意識
そもそもMSCにしてもMELにしても、我々日本人の中でどれだけの人がその存在意義を感じているでしょうか。「漁業の持続可能性」について日頃から意識している消費者がどれだけいるでしょうか。この意識の低さが、今回「自国開催のオリンピックで自国の魚介類を提供できないかもしれない」という歯がゆい事態をまねいてしまうかもしれないのです。
オリンピックの延期をポジティブに捉えるならば、この点について考える時間ができたと考えましょう。
今から申請してもオリンピックまでに各種エコラベル認証が受けられるかはわかりません。しかし日本が今後漁業を主要産業とし続けていくために「持続可能な漁業」という観点は常に必要になります。そのための意識を、オリンピックをきっかけに一人ひとりが持つことが大切になるのではないかと思います。
誤情報掲載の謝罪
記事公開時の情報にいくつかの誤情報がございました。誠に申し訳ございませんでした。修正内容も含めて以下に報告致します。
・「MEL」は国際的な認証が得られていないと掲載しておりましたが、認証を取得したことが最新情報で判明致しましたので修正致しました。(2020.04.06)
・「MSC」認証取得漁業として「アカガレイ(京都)」を紹介しておりましたが、最新情報で認証停止となっていたことが判明致しました。また、併せて「カツオとビンナガ(静岡)」が新たに認証を取得しておりましたので、こちらも含めて修正を行いました。(2020.04.06)
・「MSC」認証取得漁業の記載方法および、カウント数を修正しました。(2020.04.07)
<脇本 哲朗/サカナ研究所>