北海道最東端の漁港では、停泊する漁船が全て赤く塗られています。いったいなぜなのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
本土最東端の漁港で見た不思議な風景
先日、釣りの取材を行うために訪れた小さな漁港で、ちょっと不思議な光景を見かけました。
そこは北海道東部、本土最東端である納沙布岬にほど近い場所で、コンブやウニの好漁場として知られるところです。
その不思議な光景とは、港内に停泊中の漁船たち。いずれも同じような大きさの船で、同じフォントで船名が書かれていたのですが、なにより目を引いたのはいずれの船も、真っ赤な帯が船腹に引かれていたことです。
その派手な赤い帯は離れていてもよく目立ち、一種の警告色のようにも見えました。
なぜ、赤く塗られているの?
これらの船がいずれも赤く塗られているのは、この船が「領土係争中の海域」で操業しているためです。
納沙布岬の沖合には、我が国固有の領土でありながら隣国ロシアに不法に占領されている「北方領土」の島々があります。そのため漁港から沖に出るとすぐに、ロシアの主張する「国境線」があり、そこを越えると銃撃され、拿捕されてしまいます。
終戦後から比較的最近まで、この海域で日本の漁船が実際に銃撃され、漁師たちが拘束される事件が度々発生していました。そこで日本とロシアの間で話し合いが持たれ、現代では日本がロシアに対し「協力金」を払うかたちで日本の漁船が当該海域で操業できることになっています。
実は口にしている「北方領土産」の海産物
北方領土のある海域は、寒流である千島海流が直接ぶつかるために海が豊かで、水産資源がとても豊富です。北方領土のひとつ歯舞諸島は、かつては日本で最もコンブの水揚げが多い場所だったといいます。
そのため現在でも、この海域で獲れる水産物が国内に流通し、我々も口にしています。多いのはタラバガニ類、ウニ、そして昆布で、とくにウニはスーパーでも「北方領土産」の文字を見かけることがよくあります。
ウクライナ戦争開戦直後、日本によるロシアへの制裁を受け、ロシア側が北方領土での日本漁船の操業禁止をチラつかせたこともあります。漁業の上でも領土問題は大きな足枷となっているのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>