慣用句にも使われるほど知名度は高いけれど、実物に触ったことはない人がほとんどな「コバンザメ」。実はサメではないこの魚、一体どんな味がするのでしょうか。
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頭に小判がついたサメ
突然ですが「サメのなかでいちばん有名なものは?」という質問をしたら、なんと答えますか? おそらく、少なからぬ人が「コバンザメ!」と答えるのではないかと思います。
偉い人にくっついてその威を借りている人のことを「コバンザメのようなやつ」ということもあるくらい、我々日本人にとって馴染みのある魚であるコバンザメ。他のサメやエイ、ハタ、時にはウミガメといった大型回遊魚にくっついて移動し、その体表についた寄生虫や、くっつき先の生き物が食べ残したカスなどを食べて暮らしています。
頭部には名前の由来となった小判状の組織がありますが、これは皮膚組織と鱗の変化した骨片でできた吸盤。その吸着力は強く、また簡単にくっついたり離れたりすることができます。
実はサメの仲間じゃない
さて、大変残念なことに、冒頭の質問に「コバンザメ」と答えた人は大きな間違いを犯しています。なぜならコバンザメはサメとつくものの、サメとは全く異なるグループに属しているためです。
サメはギンザメ、エイとともに「軟骨魚類」というグループを形成しており、全身の骨が軟骨でできている、尿素や肝臓の油脂で浮力調整を行うなどユニークな特徴を持っています。
それに対してコバンザメはサバやタイ、イワシなどと同じ「硬骨魚類」に属し、カルシウムを含む硬い骨が全身に巡らされています。
味は美味しい?美味しくない?
さて、そんなコバンザメですが、魚食民族である我々からすればどうしてもその「味」が気になってしまうところですが、実際のところどんな味がするのでしょうか。
コバンザメは食用に漁獲されることはまずありませんが、近縁種で見た目もよく似た「スギ」という魚は食用魚で、養殖もされています。そちらはまるでカンパチのような味と評価され、さっぱりしながらも旨味が強く脂の乗りも良いため、刺身などで美味しい魚です。
コバンザメもスギ同様にきれいな白身で脂乗りがよく、美味しいと評価されています。一方で「磯臭さがある」「内臓に腐敗臭がある」と言われることもあり、個体差が大きい可能性もあります。またスギと比べ大きく成長しないので歩留まりが悪く、流通に乗ることは殆どないようです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>