タチウオやアジの仲間など「美しい銀白色」に輝く魚たち。その色素は我々にとって有益であり、また危険なものでもあります。
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タチウオはなぜあんなに綺麗なの?
全身がサーベルのように銀色に輝くことから「太刀魚」の名がつけられたタチウオ。生きているときは特に美しく、鏡のように周りの風景を映し出します。
タチウオがこれほどに美しく輝くのは、体表に「グアニン」という成分を大量に含んでいるからです。グアニンはタチウオのほか青魚やニベ科の魚などの銀白色をもたらす成分としても知られています。
グアニンそのものが銀色をしているわけではなく、グアニンの結晶がその内部に水分を含み、それがキラキラと明滅するために輝いて見えるのだそうです。
工業活用されることも
グアニン結晶はその輝きから、かつては「人工真珠」を作るのに用いられてきました。真珠の独特の輝きとグアニン結晶のそれは非常に似ており、また魚の鱗から簡単に取り出すことができたために盛んに用いられたのです。
現在では人工真珠の原料に用いられることはほとんどありませんが、より専門的な分野で工業利用されています。それは「細胞内部を検査する際に用いるライト」としてです。
グアニンの結晶はその厚みが極めて薄く、また磁力を与えると均一に並ぶという特性があります。そのためグアニン結晶が反射する光の方向を操作し、細胞内部などの細かい組織を照らし出すことができるのだそうです。
人体には危険!?
そんな便利なグアニンですが、ネットで調べると「人体に有毒」「グアニン中毒に注意」といったちょっと怖い言葉も見かけます。実際はどうなのでしょうか。
タチウオについて調べると、しばしば鮮度が落ちたタチウオを食べてお腹を壊すことがあるようです。しかしソースをあたるといくつかの釣り情報サイトがヒットするのみで、自然毒の情報を網羅する厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル」等のページにはグアニンの毒性は掲載されていません。
実際、グアニンはあらゆる生物の遺伝子に含まれる4つの塩基成分のひとつであり、人体にも欠かせない存在。グアニンそのものが有毒であるとするのは難しく、グアニン中毒という言葉も正しいとは言いかねるようです。
タチウオに限らずカツオやサンマ、シログチなど「皮が銀白色の魚」は、鮮度落ちが早く、ヒスタミン等を原因とした食中毒を起こしやすいという特徴を持っています。鮮度落ちに伴って表皮から悪臭を放つこともあり、これも相まって「お腹を壊したのはグアニンによる食中毒のせいなのでは」という誤解が生まれたのかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>