夏を連想させる魚はたくさんありますが、「名前に夏を含む」ものは存在するのでしょうか。
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シイラの季節がやってきた
黒潮の流れる暖かい海に面したわが国では、梅雨があけるころになって水揚げが増える魚が少なくありません。そのなかで、関東地方から西の地域で「盛夏の魚」としてイメージされるものといえばやはりシイラでしょう。
暖流に乗って回遊してくる彼らは、はじめのうちは40cm程度の「ペンペンシイラ」と呼ばれるサイズですが、やがて大きくなり、1mをゆうに超えるサイズに至ります。
カンカン照りの太陽に照らされた真っ青な海から飛び出してくる、青と黄に彩られたカラフルな大魚はまさに「夏のイメージ」の塊。古くからそのように考えられてきたようで、シイラを漢字で書くと「魚偏に暑(鱪)」となります。
季節を表す魚たち
表意文字として漢字を用いる我が国では、それぞれの季節の「季節感を表す魚」に、その季節の漢字をあてる文化が存在します。
例えば、春先に瀬戸内海沿岸部の浅い海でたくさん水揚げされることから「魚偏に春」の字があてられたのはサワラ(鰆)です。
あるいは晩秋、気温が落ちる頃に味が良くなり、熱燗の供に欠かせないことから「魚偏に秋」という字があてられた魚がカジカ(鰍)。
さらには冬に旬を迎え、脂が乗って美味しくなることから「魚偏に冬」のコノシロ(鮗)などもあります。サワラを除き、現代人の感覚ではややマイナーで、その季節を代表する魚とは言いかねるのが面白いところです。
魚偏に「夏」ってあるの?
さて、ここでひとつ気になるのは「魚偏に夏」の魚はいないのか、ということでしょう。実はちゃんと存在します。その魚とは「ワカシ」。
ワカシは東日本におけるブリの幼魚の通称で、30cmくらいまでのものをそう呼びます。夏になると沿岸部に回遊し、漁獲量が増えるためこの字があてられたようです。
しかし、ワカシは「鰆」「鰍」「鮗」と比べるとよりマイナーです。なぜならそもそもワカシは標準和名ではない上に、地域的な呼び方でしか無いため。夏をイメージさせる魚は数ある中で、ワカシにこの字を当ててしまうことに対して納得がいかない人はきっと多いのではないかと思います。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>