日本を代表する高級食材で歴史的にも重要な存在であるアワビ。近年不漁が続いていましたが、その資源量の枯渇が世界的にも明らかなものとなりました。
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アワビ類が絶滅危惧種に指定
日本の海で最も高級な食材の一つ・アワビ。縁起物として献上品にされたり、贈り物に沿える「のし」の原料にされるなど、古くから我が国の祝いの席には欠かせない存在です。
そんなアワビに関する驚きのニュースが、昨年末にニュースを賑わせました。そのニュースとは「アワビが絶滅危惧種に指定された」というもの。
世界の野生生物の絶滅危険性を評価しリスクの格付けを行う機関であるIUCN(国際自然保護連合)が、日本で漁獲されるアワビ類主要3種(クロアワビ、マダカアワビ、メガイアワビ)について「絶滅の危機が高まっている」と発表し、保護の必要性があることを指摘したのです。
これらのアワビ類は、絶滅の危機にある生物たちの現況をまとめたレッドリストの「絶滅危惧種」に指定されました。このレッドリストには採取行動を制限する法的拘束力を持ちませんが、アワビ漁を現状と同じレベルで行った場合に国際的な非難を浴びる可能性があります。
なぜレッドリスト入りしたの?
IUCNはアワビ類について、世界的に生息量が急激に減っていると報告しています。その事実を裏付けるような農林水産省の発表もあり、それによると国内の天然アワビの漁獲量は1970年の6466tをピークに、2019年には829tトンまで激減しているといいます。
漁獲量ベースでは8分の1ですが資源量ベースではピークの10分の1になっているという声もあるほどで、IUCNによると、世界で54種いるアワビ類の中の20種が絶滅の危機に瀕しているといいます。
資源量が減少した理由
アワビ資源量の減少理由としてまず挙げられるのが「密漁による乱獲」です。
世界の国・地域の中で最もアワビを消費している中国では、干しアワビをフカヒレ、ナマコ、浮き袋の乾燥品とともに「四大乾貨」と読んで珍重し、かなりの高値で流通しています。そのため、中国の犯罪組織が南アフリカなどの海でアワビ類を乱獲しており、かねてから国際問題となっていました。
またわが国でも、反社会勢力によるアワビの密漁が横行した結果、2020年よりアワビ類は「特定水産動植物」に指定され、密漁が発覚すれば厳罰が科されるルールになっています。
また、密漁と同格か、またはそれ以上に深刻な負の影響をアワビ資源量にもたらしているとされているのが「海洋温暖化」です。
アワビ類はそれ自体が比較的低水温を好む貝類であり、さらに餌となる海藻も温暖化によって減少することが分かっているため、温暖化が進行するとアワビ類の生息に適さない海域が増えてしまいます。日本沿岸でも、激しい海洋温暖化が進行中であるとされる静岡~北海道にかけての太平洋沿岸で、アワビ類の漁獲量低下が著しくなっています。
乱獲・密漁防止と温暖化への対策を両輪で進めていかない限り、アワビが食べられなくなってしまう未来が間違いなくやってきてしまうといえるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>