寒さが厳しくなるとスーパーに並ぶ食材といえばアンコウ。「吊るし切り」という独特な解体方法が知られていますが、なぜそのようにするのでしょうか。
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青森でアンコウの水揚げが佳境に
青森県の風間浦村で、いま名産の「アンコウ」の水揚げが盛期です。同村にある下風呂漁港では、一般的にあんこうと呼ばれる「キアンコウ」の刺し網漁が盛んに行われています。
先月19日には、アンコウ漁船9隻が港から3~4kmほどの沖合で漁を行い、大きなキアンコウを次々と水揚げしました。水揚げ後は荷さばき所で胃の内容物を取り除き、重さを量って箱詰めする作業が行われました。中には20kg近い大物もいたそうです。
当地で水揚げされたキアンコウは、木箱に入れられて「風間浦鮟鱇」のブランドで出荷されます。2021年にはおよそ117tの水揚げがあり、2022年も18日までにおよそ21tが水揚げされているといいます。
アンコウはなぜひっくり返して売られる?
アンコウと呼ばれる魚には、標準和名「アンコウ」と、同「キアンコウ」があります。後者のほうが大型になるため「本あんこう」とよばれ、前者は流通上は「くつあんこう」と呼ばれています。ただ「アンコウ」と呼ばれるときはキアンコウを指すことが多いようです。
キアンコウはときに数10kgにも達する大型魚であるため、スーパーでは基本的に解体されて売られていますが、市場ではまるごと売られることもしばしばです。そして、そのような場合はだいたい天地逆さまにして、お腹を上にして置かれています。
なぜこのようにして置かれるのかというと、アンコウが大食漢である故に、胃袋の中にいろいろなものを飲み込んでいる可能性があるため。単純にまるごとの目方を量っても、実際はその多くが胃袋の中身でしたというのでは詐欺みたいなものになってしまいます。そのため、胃の内容物の有無を見られるように逆さまにされているのです。
またそれに加え、アンコウの中で最も価値が高い「肝」の大きさを見やすくするために、お腹を開いた状態で置かれていることもしばしばです。
なぜ「吊るして捌く」のか?
アンコウといえばまた、その解体方法の特殊さで知られている魚です。彼らは「吊るし切り」といって、アンコウの下顎にフックを掛け、ぶら下げた状態で解体されることが多いのです。その際に胃袋に水を入れて重くし、安定させることもあります。
なぜこのような解体方法をとるかというと、アンコウが水分を多く含み、ぶよぶよしている上にぬめりも多く、まな板の上では安定させることが難しいからです。加えてアンコウの口中には鋭い歯がたくさん生えており、頭部を押さえて解体するのはとても危険。そのためあえてぶら下げることで、解体中に滑ったりずれたりすることを防いでいるのです。
ただし、家庭でアンコウを解体するときに吊るすのは困難なので、そのような場合はまな板に乗せてさばいても大丈夫。その際は軍手をした上で、危険な歯の生えているアゴ周りを、最初に切り離してしまうと良いでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>