ここ数年ひどい不漁が続いているサンマと入れ替わるように、東北日本の海で豊漁となっているイワシ。いわゆる「魚種交代」が発生しているようにも見えますが、実際はどうなのでしょうか。
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八戸でマイワシが豊漁
今月9日、北海道東沖の太平洋で漁獲されたマイワシが、青森県の八戸港第1魚市場に水揚げされました。水揚げ量は約1,160tとなり、今季初めて大台を突破したそうです。
今回のマイワシは大型~中型の旋網船団によって漁獲されたもので、1隻当たり120~280tのマイワシに相当するそうです。今回穫れたものは1匹60g前後の小型が主体だったため、価格はさほど伸びず、市場関係者は「今後に期待したい」と語っています。
水揚げされたマイワシのうち、鮮度がいいものに関しては食材用に冷凍されて出回りますが、大半はフィッシュミールにされ、家畜や養殖魚の飼料として加工されるとみられています。(『マイワシ1160トン、ハマに活気 八戸港』東奥日報 2021.10.9)
サンマとマイワシで明暗
ここ数年、マイワシ漁は好漁が続いています。2019年のマイワシの水揚げ量は49万tにのぼり、これはその5年前の倍以上の数値となっています。
北海道では昨年、大きなマイワシの群れが函館港内に迷い込み大量死する事件も発生するなど、沿岸のマイワシ資源量はとても豊富な状態が続いているのです。
一方で対照的なのがサンマ漁。今年も全国的に不漁が続き、1匹数百円と例年の数倍の価格になっています。上記の八戸港からさほど遠くない岩手県宮古市ではサンマ漁が盛んですが、今年の水揚げは記録的不漁と言われた昨年をも下回る状況となっているそうです。
原因は「魚種交代」?
サンマの不漁とマイワシの好漁の原因には、しばしば「魚種交代」という説が挙げられます。これは、同じような場所に生息し同様の生態を持つ「サンマとイワシ、サバ」の3種は、数十年単位で豊富に穫れる魚が入れ替わる、というものです。
しかし専門家はそこには懐疑的のようで、むしろ「そもそもの海の環境の変化」が起こっているのではないか、と指摘しています。
日本近海を含む北太平洋海域は、数十年単位で海流や海温の変動を繰り返していることが知られています。具体的には、1950年代から70年代にかけては比較的暖かい「温暖期」となっていましたが、そこから90年代初期まで「寒冷期」が続き、いまは再び温暖期になっているといいます。
その中で、マイワシは本来寒冷期に多く穫れる魚でした。しかし、温暖期に入っているはずの現在でも予想外の豊漁が続いています。このことが、これまでとは海洋環境自体が変わってしまったことを示していると考えられるのです。
現状、特にサンマに関してひどい不漁が続いている状態ですが、はっきりしないその原因をむやみやたらと「魚種交代」と決めつけてしまうと、人間にはどうにもならないことと対策をしなくなることにも繋がりかねません。そうなればもし魚種交代のせいでなかった場合、資源量の減少は取り返しのつかないものになってしまうでしょう。
原因がある程度見えてくるまでは、サンマの大規模禁漁も含めた根本的な対策を検討するべきかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>