富山県で「コイにお酒を飲ませる」というちょっと変わった厄払い行事が行われました。ところで、人と同じように魚にも「酒好き」はいるのでしょうか?
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
富山の伝統行事「厄払い鯉」
富山県砺波市庄川町で7日、伝統行事「厄払い鯉」が放流され、話題になりました。庄川峡観光協同組合の主催で行われるこの行事では、例年「厄年」を迎えた数え年25歳、42歳の男性が、コイにお神酒を飲ませて放流します。
参加者はいずれも金屋神明宮の氏子で、同宮での神事の後、酒を飲ませたコイ4匹をなでて厄を託しました。「災厄のない1年になってほしい」「新型コロナウイルスが早く収束してほしい」といった願いも託されたそうです。
1816年から実に200年以上も続くこの行事。神前に供えられたコイが、長時間の神事後も生きていたため、その生命力にあやかって放流したことが起源とされています。(『庄川の奇祭「厄払い 鯉の放流」』NHKニュースウェブ 2021.1.8)
動物に酒を飲ませる日本文化
祝いの席や神事には欠かせない酒ですが、「厄払い鯉」のように、動物に酒を飲ませる文化は古くから各地に存在しました。
例えば北海道のアイヌには「カムイチップ」と呼ばれるオオカミウオが漁獲されると、酒を飲ませて再び放流するという文化があったといいます。
また全国的に、漁の網にウミガメが入ってしまったときに、酒を飲ませて戻すことがあったそうです。
これらはいずれも、不意の訪問者を「神の使い」として珍重し、酒を飲ませることで感謝の意を伝え、豊漁祈願をする、というような意味合いがあります。
アイゴは酒飲み?
このように「酒を飲まされる」ことのある魚たちですが、「お酒が好き」な魚というのは果たして存在するのでしょうか。
釣りにおいて、液体の酒やアルコール分の残っている酒粕を餌に用いる例は数多く知られています。淡水ではコイやフナ、海水ではクロダイなどの釣りにおいて酒や酒粕を餌に混ぜ込むことがあります。
とくに、九州から中部地方の広い範囲にかけて人気の高い釣魚である「アイゴ」の釣りでは酒粕は欠かせない餌のひとつ。練りエサに配合されるほか、時には酒粕そのものを丸めて針につけて餌とすることもあり、「アイゴは酒飲みだ」と言われるようなこともあります。
アルコールを好むわけではない
しかし一方で、魚はヒトと比べアルコールを分解する能力が低い(もしくはほぼない)とされており、直接的に過度な「飲酒」を行えば健康を害し、死に至る可能性もあります。
そのため彼らが進んで飲酒を行うとは考えにくく、釣りにおけるアルコールはあくまで「匂いの一要素」としての役割、あるいは餌の匂いが水中に広がりやすくするための溶媒、といった程度の意味合いではないかと思われます。
筆者としては、もし大酒飲みの魚が存在すれば嬉しいですし、水槽で飼育しながらともに晩酌を楽しみたいなとも思うのですが……。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>