その見た目と獰猛な性格から、釣り人や漁師に恐れられ嫌われるウツボ。しかし実は食べて美味しい魚でもあることをご存知でしょうか?
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
ウツボ(キダカ)の天日干し
日本本土の最南端である佐多岬にほど近い、鹿児島県南大隅町佐多地区。ここでは12月に入り、名物である「キダカの天日干し」の製造が始まっています。
キダカは鹿児島における地方名で、正式和名はウツボ。黄色と黒の虎柄模様と、歯をむき出した恐ろしい形相で知られるウナギ目の魚です。開きにした1m前後のウツボが干し場にずらりと並んでいる景色は、この地域の冬の風物詩なのだそう。
北西の寒風にさらされたウツボはうまみが凝縮し、そのまま焼くほか鍋にしたり、揚げたりしても美味しいそうです。「キダカの天日干し」の製造は来年3月まで行われます。(『「佐多の珍味味わって」 冬の風物詩・ウツボ天日干しずらり 鹿児島・南大隅』南日本新聞社2020.12.4)
ウツボは怖い魚?
ウツボは温かい海を好む魚で、日本では房総半島以南の沿岸に棲息しています。南に行けば行くほど種類も多くなり、色彩も熱帯魚のようなカラフルさになります。
その荒々しい風貌から「海のギャング」と呼ばれることが多いウツボですが、実際に釣り人や漁師、ダイバーにとっては危険な魚のひとつです。鋭い歯と気性の荒い性格で、噛まれると大怪我を負うことも。
ただ、向こうから危害を加えてくることはあまりなく、捕獲したり巣穴に手を突っ込んだりしなければ危険はさほどありません。生きた魚はさほど襲わず、スカベンジャー(屍肉食)としての性質が強いため飼育も容易。アクアリウムで人気の魚種となっている一面もあります。
実は美味しいウツボ
ウツボを常食しているのは、鹿児島県だけではありません。ウツボが棲息している地域ではほぼすべての場所で、流通こそしないものの地元消費が行われています。
ウナギ目の魚であるウツボは、その見た目に似合わない淡白な白身で強い弾力があり、ウナギやアナゴを強靭にしたような肉質です。旨味も豊富で出汁もよく出る上、冬になると脂が乗りとても美味。地域によっては、たたきや刺し身でも食べられています。
特に好まれているのが高知や和歌山。これらの地域では居酒屋にはいると当たり前のようにウツボのメニューが存在し、ウツボを加工したスナックがコンビニで売られているほどです。
ウツボは食べてみたいけど自分ではとても捌けない…という方は、ぜひこれらの地域を訪れてみてください。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>