玄界灘で越冬する亜熱帯のサカナを確認 温暖化で変わる各海域の生物層

玄界灘で越冬する亜熱帯のサカナを確認 温暖化で変わる各海域の生物層

海水温が年々上昇しているのに伴い、日本各地の海で、これまで見られなかった生物の発見が報告されています。

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サカナ研究所 その他

玄界灘に熱帯魚!?

九州の北に広がる玄界灘。そこに突き出す北松浦半島の先端に位置する佐賀県唐津市の海で、これまでに確認されたことのない魚たちが次々と報告されています。

今年の8月、北松浦半島のすぐ北にある馬渡島近海で、岩肌に産み付けられたクマノミの卵が確認されました。クマノミの親魚は10年ほど前から姿を見せていましたが、3年ほど前からは越冬個体が確認されるようになっていたそうです。また昨年8月下旬には、卵を世話するソラスズメダイも確認されたといいます。

玄界灘で越冬する亜熱帯のサカナを確認 温暖化で変わる各海域の生物層クマノミ(提供:PhotoAC)

その他、周辺海域では今年2月に、沖縄県魚として広く知られるグルクン(タカサゴ)の近縁種・ニセタカサゴの群れが観察されています。魚以外でも、サンゴの一種エダミドリイシや、沖縄県に多いウニのラッパウニといった南方系の生物が次々報告されています。(『玄界灘に亜熱帯の生き物が続々 クマノミもラッパウニも…温暖化が影響か』西日本新聞 2020.11.7)

各地の海で進む温暖化

玄界灘から700kmほど北東にある富山湾。ここでも玄界灘同様に、南方系の魚であるケラマハナダイとイトヒキベラが確認されています。ケラマハナダイは太平洋側に生息するハタの一種、イトヒキベラは九州や沖縄周辺で多く見られるベラの一種です。

いずれも、東シナ海から玄界灘を経由し日本海を北上する暖流である「対馬海流」によって富山湾まで流されたとみられています。(『富山湾に珍客、南方の魚2種 魚津水族館が初確認』北陸・信越観光ナビ 2020.11.7)

玄界灘で越冬する亜熱帯のサカナを確認 温暖化で変わる各海域の生物層ソウシハギ(提供:野食ハンマープライス)

同様の事象は太平洋側でも各地で発生しており、例えば相模湾では、南方系の猛毒タコであるヒョウモンダコの棲息報告地域がどんどん北上していることがわかっています。また、東京湾でもトラフグやソウシハギといったこれまでほぼ報告されていなかった魚が、次々と発見されるようになっています。

温暖化がもたらす変化

気象庁のデータによると、九州北西部の海面水温は2019年までの100年間で1.25℃、冬場は1.57℃ほど上昇しているのだそうです。

魚にとって水温が1℃上昇することは、我々にとって気温が10℃上昇することに相当する、という説もあるほどで、これほどの幅の上昇は海洋生物層に小さくない影響を与えるでしょう。

ケラマハナダイやイトヒキベラのように、暖流に乗って北上した生き物の多くは、冬に海水温が下がると死滅してしまう「死滅回遊魚」なのですが、冬場の水温が上がることで彼らが死滅しなくなると、定着して新たな分布域になる可能性があります。

玄界灘で越冬する亜熱帯のサカナを確認 温暖化で変わる各海域の生物層アイナメ(提供:PhotoAC)

もちろん温暖化によって棲息する生物が増えるだけというわけはなく、例えば玄界灘では比較的冷たい海を好むアイナメの卵は近年、見なくなったといいます。新しい魚が見られるようになる一方で、北方系の魚がいなくなるというのは今後各地の海で見られるようになるでしょう。我々は常に環境の変化を注視していく必要があると言えそうです。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>