瀬戸内海に面し、カキの養殖で有名な岡山県備前市日生。そこで現在、「アナゴを使ったとある料理」を新たな名物にしようという動きがあります。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
備前市のアナゴの「しゃぶしゃぶ」
瀬戸内海に面し、風光明媚な景色とカキを始めとした美味な海産物で有名な岡山県備前市。そこにある備前観光協会が、備前市の「新たな名物」を目指しているとある料理の試食会を開催しました。
その料理とは「アナゴのしゃぶしゃぶ」。食用魚としてトップクラスの知名度を誇るアナゴですが、しゃぶしゃぶにされる例はこれまでは殆どありませんでした。
試食会に参加した人々からは「食感が良い」「のどごしがよく美味」「骨も気にならない」と好評だったといいます。
貴重な「日生産のアナゴ」
実はこのアナゴのしゃぶしゃぶは今回新たに開発されたものではなく、備前市の日生湾に面する旅館で10年前から提供されていたものだといいます。内湾で砂泥底が広がる日生湾は、古くからアナゴの名産地として知られてきました。
そのため今回「アナゴのしゃぶしゃぶ」をPRするにあたり「日生のアナゴ」を使用していることをアピールしたかったそうなのですが、残念ながらそうはいかない事情がありました。
実は日生湾のアナゴ漁獲高は年々減少しており、2019年度の水揚げはたったの387kgと10年前の約3分の1になってしまっているそうです。美味な海産物が自慢の備前市では「アナゴのしゃぶしゃぶ」も「地産地消」料理としてのPRを目指していたそうですが、日生産のアナゴにこだわってしまうと早晩行き詰まってしまう可能性があります。そのため長く提供していくことを視野に入れ「日生で取れた」とは銘打たずにPRしていくことに決めたそうです。(『備前市の新たな名物を目指す「アナゴのしゃぶしゃぶ」 アピールしたい看板料理に苦労も 岡山』瀬戸内海放送 2020.11.10)
安全で美味しいしゃぶしゃぶ
蒲焼きや煮穴子、寿司ネタとして消費されることの多いアナゴ。しゃぶしゃぶのような「生に近い料理」で食べることはできないと思っている人は少なくないかと思います。
しかし、例えば東北地方では大きなアナゴを生食する文化が存在します。筆者も自分で作って食べたことがありますが、生のアナゴは歯ごたえが非常に良く、脂も乗っていて、白身魚の中でもトップクラスに美味しいものだと思います。
しかし実は、アナゴを始めとするウナギ目の魚の多くは、体表のぬめりと血液に弱い毒成分を持っていると言われています。そのため完全な生食はリスクがあるとされ、避けられてきたのです。
しかし、アナゴの毒はタンパク質で加熱により容易に変質させることが可能。さっと火を通して食べる「しゃぶしゃぶ」なら毒の心配をすることはありませんし、一方で長く火を通す料理と比べると生に近い歯ごたえや食感も楽しむことができます。
今後「しゃぶしゃぶ」は、新しいアナゴの食べ方として市民権を得るかもしれませんね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>