夏が旬の高級魚・イサキ。実は、養殖も行われています。本来、養殖向きではないとされるイサキが各地で養殖されるようになった理由には、とある「中国産」が関係しているといいます。
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夏の高級魚・イサキ
初夏から夏にかけてのいわゆる「麦秋」の時期に旬を迎えるイサキ。とくに関東では高い人気があり、刺身や寿司ネタとなるほか、塩焼き用魚の最重要品種のひとつとしても珍重されています。
市販されているものは80~160g前後の物が多いですが、大物になるほど脂ののりが良くなるとされ、価格も上がります。500gを超えてくるとかなりの大物で、1kgを超えると1万円以上の値がつくこともある高級魚です。
このためシーズンになると、関東や伊豆周辺では盛んにイサキ狙いの船が出船し、多くの釣り人で賑わいます。もちろん漁師にとっても大事なターゲットで、一本釣り漁師の船と遊漁船が同じポイントでしのぎを削るというような光景も見かけるほどです。
実は養殖も盛んなイサキ
さて、わが国では現在、様々な高級魚の養殖が盛んに行われています。となればこのイサキも、養殖の需要があるのでは……と考えるのは自然なことです。
実際のところ、マダイやカンパチなどと比べるとマイナーではありますが、イサキも養殖が行われています。生産量上位は愛媛県、高知県、熊本県などで、その他にも全国各地で行われているそうです。(『イサキ』全国海水養魚協会)
養殖魚の例にもれず、イサキも天然物より養殖物のほうが脂のりがよくなりやすく、加熱調理ではこちらの方を好む人も少なくないようです。
「中国産の稚魚」がポイント
養殖業の発展に鑑み、今後もより増えていくと思われる養殖のイサキ。しかし一方で、実はイサキという魚は本来成長が遅く、養殖には不向きの魚と言われています。とある研究によると、一般的な市販サイズである80~160g程度の大きさに達するまで、自然環境下では平均して2年程度かかるといいます。(『人工孵化による中国産および日本産イサキ仔稚魚の成長と形態比較』近畿大学水産研究所,近畿大学大学院農学研究科)
しかし、この問題を解決する要素が見つかったことが、養殖のハードルを大きく下げたました。それは「中国産の稚魚」。中国から輸入された稚魚を養殖用種苗に用いると、日本の環境で養殖を行っても、同様に育てた国産稚魚と比べると倍以上の速さで成長することがわかったのです。(『人工孵化による中国産および日本産イサキ仔稚魚の成長と形態比較』近畿大学水産研究所,近畿大学大学院農学研究科)
結果として1年で市販サイズに、2年で500gオーバーの「高級魚サイズ」に生育させられることがわかり、養殖魚として採算がとれるようになったといいます。現在では種苗輸入もかなり一般化し、盛んに輸入されているそうです。
懸念点も
ただ一方で、中国産イサキ種苗に関する問題も報告されています。たとえば、中国産イサキ種苗には「肉芽腫症」という病気が特異的に発生することがわかっており、致死性が高く問題となっています。(『養殖イサキに発生した細胞内寄生細菌による肉芽腫症』「魚病研究」37巻3号 福田 穣, 岡村 愛, 西山 勝, 川上 秀昌, 釜石 隆, 良永 知義 2002)
また、原因ははっきりしていないのですが、中国産種苗を国内で養殖すると、そうでないものと比較しアニサキスの寄生率が有為に高まることが判明しています。(『中国産中間種苗由来養殖カンパチ等のアニサキス対策について』厚生労働省 2005.6.15)
養殖のイサキを食べる際にはこのことに留意し、可能ならばできるだけ加熱料理で食べるようにするのが無難かもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>