日本食に欠かせない材料といえば、やはり魚介の「出汁(だし)」。その歴史は古く、出汁の起源は、実は縄文時代にまで遡ると言われています。
(アイキャッチ画像出展:PhotoAC)
関東風と関西風の違い
味の視点では、日本国内の出汁は「関東風」と「関西風」に分けられます。
関東風では濃口しょうゆを使っているため色が濃く、反対に関西風は薄口しょうゆを使っているため、見た目の色が薄いのが特徴です。
同じように使われていたはずの出汁で、なぜ東西でこのような違いが出たのでしょうか。
水の硬度の差
実はここにも水の硬度が大きく影響しています。
昆布から出汁をとる場合、ミネラル分の少ない軟水を使用したほうがうま味成分(イノシン酸やグルタミン酸)が多く抽出できますが、関東の水は関西の水に比べて硬度が高かったのです。
そのため、うま味成分を他のものから補う必要があったため、鰹出汁に濃口醤油を入れることで味を担保していたと考えられています。
また、昆布についても、名産地である北海道から太平洋経由で関東へ運搬するのはとても困難だった一方で、関西へは日本海側から運搬でき、上質な昆布が流通していたことなども大きく影響しているようです。
化学的な証明ができなかった時代にも関わらず、日本人は手に入る食材を上手に使って一番美味しい味を作り上げてきたのです。
出汁は塩分補給の意味合いも
また、このミネラル分についても、日本人は世界的に見て、塩分の摂取量が多いと言われています。
硬度の高い水で日常的にミネラル分を取ることができる他国に比べて、軟水の日本では、塩でミネラル分を摂取する必要がありました。不足しがちなミネラル分を、出汁を使用することで補っていたのだと考えられています。
日本人にとって出汁は旨味を増加させる食材だけではなく、生きていくために必要不可欠なものだったと言えるでしょう。
出汁は日本人の誇り
2013年にユネスコ無形文化遺産に「和食」が登録されました。
和食の美味しさを支えているのは、職人の技術だけでなく、「出汁文化」であることは間違いありません。
そして、当然ながらその背後には魚介類の存在が欠かせません。私達を取り巻く食文化と、「サカナ」や「海」は切っても切れない関係があるのです。
<近藤 俊/サカナ研究所>