フグに『毒』がある理由と生成メカニズム 無毒の養殖モノの方が凶暴?

フグに『毒』がある理由と生成メカニズム 無毒の養殖モノの方が凶暴?

ふわふわと可愛い見た目の魚といえば「フグ」。高級な食材としても有名ですが、可愛い見た目とは裏腹に、彼らの体内にはとてつもない殺人毒が・・。フグが持つ毒のついての理解を深めていきましょう。

(アイキャッチ画像出典:PhotoAC)

アバター画像 TSURINEWS編集部

サカナ研究所 その他

フグ=『鉄砲』の由来

現代の人はあまり馴染みのない呼び名かも知れません。

フグは江戸時代の頃、彼らが持つ毒が、ある武器の特性に似ていることから、少し恐い呼び名で呼ばれていました。

それが『鉄砲』。

「鉄砲に当たる」と「フグの毒に当たる」をうまく掛け合わせて、当時の人はフグのことを『鉄砲』と呼んでいました。

この呼名は今でも大阪の一部の地域では使われているようです。ちなみによく耳にする「てっさ」や「てっちり」の「てっ」はこの鉄砲が省略されたものになります。もともとは鉄砲刺身と鉄砲ちり鍋が、いつしか省略され「てっさ」や「てっちり」と呼ばれるようになったとされています。

フグの毒の成分

フグ毒の正式な名前はテトロドトキシン (tetrodotoxin, TTX) で、化学式ではC11H17N3O8 で表されます。

フグ毒として有名ですが、テトロドトキシンは他にも一部のイモリやタコ、貝類などが持っています。

フグ毒のこわいところ

「当たれば死ぬ」とまで言われているフグ毒はどれくらいの強さなのでしょうか。

例えば、よく推理小説やドラマなどで名前の聞くことのある「青酸カリ」。

口から摂取したときの致死量は成人の場合150〜300mgと推定されています。しかし、このテトロドトキシンはわずか1~2mgと推定され、毒物の代表でもある青酸カリの800倍相当の毒性を持っています。

摂取してから死亡するまでの時間は4時間~6時間程度と推定されており、摂取してしまった場合は速やかに医者に処置をしてもらわねばなりません。

また、毒なんて加熱すれば問題ないと思う方もいるかおしれませんが、このテトロドトキシンは熱にも強く、300 ℃以上に加熱しても、分解されることはありません。

未だに特別な治療薬も存在していないので、身近な毒の中でも最強の毒と言っても過言ではないでしょう。

過去の事故例

フグ毒での事故の殆どは、正しい知識を持っていない人がフグを調理したことによる食中毒ですが、過去には相撲部屋で集団食中毒が発生し、6人に発症、内1名がなくなってしまったこともあったようです。

平成30年のフグによる食中毒の事件数は14件で、患者数は19人でした。(*2019年10月23日現在、参照:「厚生労働省ホームページ」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html)

フグ毒が危険なものと分かっていても、最近ではYoutubeでも調理動画が上がっていたりするので、それを見て調理してしまう人もいるようです。

例えうまく捌けていたとしても、有毒部分を切除した包丁やまな板でそのまま調理することで身に毒が付着し、それを口にしてしまうことでも食中毒は起こります。

正しい知識がない人が調理するのは非常に危険です。絶対に真似しないようにしてください!

フグに『毒』がある理由と生成メカニズム 無毒の養殖モノの方が凶暴?調理には基本免許が必要(出典:PhotoAC)

フグ毒の症状

もし仮にフグ毒を食べてしまった場合、前述の通り、症状の進行がかなり早いことで知られています。

時間の経過ごとの症状は以下のとおりです。

1.食後20分から3時間までに、口唇、舌端、指先のしびれを感じるようになる。

2.頭痛、腹痛などを伴い、激しい嘔吐が症状が現れる。その後、歩行に支障が出始め、千鳥足になる

3.まもなく、知覚マヒ、言語障害、呼吸困難となり、血圧が下降する。

4.その後、全身が完全な運動マヒになり、指さえ動かすことが困難になる。

5.意識は死の直前まで明瞭だが、意識消失後まもなく呼吸・心臓が停止し、死に至る。

フグ毒の作成メカニズム

ここまでの内容でフグが非常に危険な魚であることがお分かりいただけたと思いますが、一つ勘違いをしてはいけない点があります。

それはフグは毒を作るサカナではないということ。

「え、毒あるじゃん」

そう思った人も多いと思います。しかし、フグは毒を作りだすことはできません。長年、フグ自身が毒を作り出しているのか、外部から取り入れているのか議論されてきました。

フグの人口養殖によって、フグ毒というのはもともとはフグの体内にあるものではないという事が判明しました。

毒を持つカニやヒトデ、藻類をフグが捕食することでフグの体内に毒が取り込まれ、肝臓を中心とした内臓に蓄積されることでフグは毒を持つようになります。

ドンドン蓄積されることで、毒はより濃くなっていきます。このことを「生物濃縮」といいます。

生物濃縮により獲得する毒は、捕食した餌によって濃度が異なります。有毒なエサばかりを食べていたフグの毒はより強力に、無毒なエサばかり食べていたフグの毒はそこまで有毒ではなくなります。ちなみに人口養殖で、育てたフグには毒がありませんでした。

フグに『毒』がある理由と生成メカニズム 無毒の養殖モノの方が凶暴?近年では無毒な養殖フグも(出典:PhotoAC)

なぜ毒を持つのか

前述の生物濃縮の話に付随しますが、フグは毒を取り込むために好んで有毒の生物を捕食しているという説があります。

有毒成分を取り込むことにより、フグには大きく2つの効果があると言われています。

1.自身の身を守るため

フグの中には皮膚からもテトロドトキシンを放出する種類のものがいます。

放出されたテトロドトキシンにを察知した外敵はこれは食べれないサカナと判断し、避げていくため襲われずにすむのです。

2.オスを誘惑するため

有毒であるテトロドトキシンがフグの間ではフェロモンのような役割を果たしているという説です。

実際にテトロドトキシンを持つ卵巣に雄のフグが引き寄せられることが確認されています。

他の生物にとっては有毒で近寄りがたい成分でも、同じ種類のフグからしたら、反対に誘惑のフェロモンになっているの可能性があります。

フグの養殖について

近年では生物濃縮のよる有毒化の原理を反対に利用し、エサを管理することで無毒のフグを養殖することに成功しています。

外洋の生簀で養殖してしまうと、海水中のプランクトンから毒が蓄積してしまうため、飼育水まで徹底的に管理することにより、無毒のフグを養殖が福岡県など一部の地域でできるようになりました。

しかし、肝の食用は未だ認められていません。

理由としては、

1.毒化の仕組みそのものが完全に解明されていない

2.肝臓全体で無毒が証明されていない

3.「肝が安全」だという誤解が広まってしまう可能性

などが挙げられているようです。

無毒フグは凶暴?

無毒なフグを養殖すると、養殖しているフグたちが凶暴化しやすい傾向があるようです。

まだまだ原因がはっきりしていませんが、無毒フグの養殖生簀では、通常の養殖生簀よりもフグ同士の喧嘩や共食いの発生率が高いようです。

そのため、ヒレがぼろぼろになってしまう個体も多く、商品化できなくなってしまうこともあるのだとか。

まだまだ、生産管理の点においても、課題があるのかもしれません。

高い値段は技術料

フグは非常にお美味しく、更にいろいろな食べ方を楽しむことが出来るため、古くから高級品としてされてきました。

しかしその一方で身には強力な毒があるため容易に食べることが出来ません。

それでも食べたいと自分で調理してしまい、命を落とす人がいるほどです。

フグが高価なのは、フグ自身が貴重なのではなく、職人さんの知識と腕、技術料への対価とも言えるでしょう。

<近藤 俊/TSURINEWS・サカナ研究所>