全国各地で漁業被害を出している「黒い悪魔」。その魔の手は徐々に北上しているようです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
シジミの名所で漁獲量が半減
茨城県にある関東有数の湖沼「涸沼」。ツチノコのような形をしたこの湖は、涸沼川で太平洋と繋がり、満潮時には海水が入ってくるため汽水湖となっています。
涸沼には、他の汽水湖と同様に多種多様な生物が棲息しており、特にシジミは関東有数の産地となっています。しかし涸沼のシジミはここ数年生産量が激減しており、2025年は前年度と比べ半減となっています。
キチヌが原因?
キチヌ(提供:PhotoAC)このシジミ漁獲量減少の理由と目されているのが「キチヌ」です。キチヌはキビレ、キビレチヌとも呼ばれるクロダイの近縁種で、本家クロダイ同様なんでも食べる雑食性です。ここ数年涸沼で増殖しており、涸沼で水揚げされたキチヌの消化管にはたくさんのシジミが詰まっていたそうです。
なんでも食べるキチヌやクロダイ
このキチヌやクロダイは、実はいま全国的に漁業者を悩ませる存在となっています。というのも、彼らは実にさまざまな養殖魚介を食べてしまうからです。
例えば静岡県の浜名湖では、最近急増したクロダイが養殖筏のカキを食べてしまい問題となっています。浜名湖ではクロダイはアサリ減少の原因にもなっていると考えられ、網を張るなどの対策が行われています。
クロダイの口(提供:PhotoAC)また瀬戸内海では養殖のノリがクロダイに食べられてしまっています。鋭い歯でノリを海苔網から切り取ってしまうため「カミソリ魚」と呼ばれて恐れられています。
本当にクロダイが悪いの?
これらの産地においてクロダイの被害が近年増殖しているのは、簡単にいうと「クロダイの生息数が増えているから」です。クロダイは温暖な海域を好む魚で、とくにキチヌはもともと西日本にしかいない魚でした。
しかし近年の海洋温暖化で、これらの魚の生息域が北上しており、これまでクロダイ、キチヌがあまりいなかった場所で増えてしまっています。そのため相対的に彼らによる食害が増えているように感じられてしまうという側面があります。
クロダイの群れ(提供:PhotoAC)そもそも浜名湖のアサリやカキの生産量減少は、海洋温暖化による海面上昇の影響で浜名湖の塩分濃度が高まったためという説が一般的ですし、瀬戸内海のカキやノリも夏季の高水温によるへい死の影響が指摘されています。漁獲量減少をクロダイのせいにするのは簡単ですが、そのクロダイを増やしたのは人間の経済活動だといえるかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>

