逃げ出した養殖魚が環境にもたらす悪影響とは 解決策は陸上養殖スタイルにあり

逃げ出した養殖魚が環境にもたらす悪影響とは 解決策は陸上養殖スタイルにあり

天然魚を獲るのと比べて「環境に良い」と思われていることも多い養殖漁業。しかし近年、養殖漁業による「環境問題」が多々指摘されています。

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養殖マダイが逃げ出すとどんな問題が?

「めでタイ」「ありがタイ」と珍重され、祝いの席を飾るマダイ。われわれ日本人の食卓に欠かせない魚でその需要は高く、日々大量のマダイが消費されています。

マダイはもともと非常に数が多い魚というわけではなく、養殖がなければ需要を賄うことは到底できません。そのため各地で盛んに養殖が行われ、天然資源を守ることにつながっているのですが、その一方で逆に「養殖マダイによる天然資源への悪影響」もあることが近年指摘されています。

逃げ出した養殖魚が環境にもたらす悪影響とは 解決策は陸上養殖スタイルにあり養殖マダイ(提供:PhotoAC)

在来と異なる遺伝的特徴

先日、日本大学のグループによる研究で、マダイの養殖が盛んな長崎県、高知県、愛媛県で、在来のマダイと異なる遺伝的特徴が見つかったそうです。天然マダイ同士では、地理的に遠く離れた場所でもそこまで大きな遺伝的特徴の差は見出されないため、この「異なる特徴」は養殖マダイが逃げ出して野生化したり、天然マダイと交雑したことを強く示唆します。

これを聞いて「結局マダイはマダイなんでしょ?」と思う人も多いかもしれませんが、同種間でもこのような「遺伝子汚染」は問題を引き起こす可能性があります。生き物はそれぞれの地域や環境の中で繁殖していく中でその形質に微妙な差異をもち、同じ種類であっても別種のような多様性を持つことがあります。その中に「養殖個体」のようなまったく別の遺伝子が入ってしまうと、長い年月をかけて作られてきた多様性が一瞬で破壊されてしまいます。

生き物の多様性はその生き物が長く生き残っていくための「進化」のようなものであり、それを人の手で破壊してしまうことは種の保存を妨げてしまう可能性があります。マダイのような普遍的な魚であってもそれは起こりうることです。

鹿児島湾に定着したモンスター養殖魚

養殖魚というのは(仮にそれがマダイのような「日本の在来種」であったとしても)逃げ出した先の環境では「外来生物」です。国外外来生物、国内外来生物いずれも、移入先で外来種問題を引き起こす厄介な存在となります。

外来種問題といえばブラックバスやブルーギル、ニジマスなど「淡水域」でのものが有名ですが、海の中でも逸出した養殖魚によって外来種問題が引き起こされています。近年注目されているのが鹿児島湾(錦江湾)の「タマクエ」です。

逃げ出した養殖魚が環境にもたらす悪影響とは 解決策は陸上養殖スタイルにありタマカイ(提供:PhotoAC)

タマクエはハタ科の巨大魚であるタマカイと、同じくハタ科で食味が非常に良いクエを掛け合わせたハイブリッド生物で「食味が良く、成長が速い養殖魚」として鳴り物入りでデビューしました。しかし成長が速いということは「魚をたくさん食べる」ということでもあり、もし天然環境に逃げ出したら大変なことになるという予測もありました。

その予測は残念ながら当たり、荒天で破損した養殖施設から逃げ出したと思われるタマクエが鹿児島湾各地に定着し、最近では大きなものから小さなものまで漁獲されるようになっています。おそらく湾内で大量の在来生物を捕食しているものと考えられ、環境に与える悪影響が強く懸念されています。

解決策は「陸上養殖」?

このように、養殖魚は常に「逃げ出して問題になる」というリスクを抱えています。ということはつまり「逃げ出さない環境」ならリスクは低くなるということです。このような環境を実現したものが「陸上養殖」です。

陸上養殖はその名の通り、陸上の生け簀やプールの中で魚介類を養殖するものです。くみ上げた海水をろ過循環しながら用いて魚を育て、ふ化から出荷まで一度も海を用いない「完全陸上養殖」という技術も今では一般化しています。この方法ならば逃げ出す可能性はほぼゼロであり、外来種問題を引き起こす可能性はかなり低いでしょう。

逃げ出した養殖魚が環境にもたらす悪影響とは 解決策は陸上養殖スタイルにあり養殖のリスクを直視すべし(提供:PhotoAC)

ただし、陸上養殖はコストがかかり、また汚染された海水を放出することで放出先の海域が富栄養化してしまう可能性があるなど、海面養殖にはない問題があり、完全に置き換わるというのは難しいでしょう。まずは海面養殖による逸出リスクとまじめに向き合い、それが起こらない方法を真剣に考えていくというのが大切なのではないでしょうか。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>

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