人生には予期せぬ出会いが満ちている。先日から筆者が釣りを説こうとしているのは、まさか職場のネイルゴテゴテ19歳女性というのも妙なズレだし、なんとその女性が中国育ちであることを本当につい最近知った。まったく何の他意もなく「そういえばSさんってずっと大阪?」と聞いたところ、「いや、中3まで中国です」と言われたのだ!好奇心をおさえられず、魚の話もしながら、国際交流してみた。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター井上海生)
中学まで中国の女性にインタビュー
職場の仲間でダントツ若い19歳のSさん。先日から「ボク、釣りやるんだけど、興味ある?」と釣りの良さを教え込み中なのだが、彼女に関する基本情報をまったく知らなかった。職場の仲間も半分くらいは知っているらしいが、中国人(父)と日本人(母)のハーフで、中3まで中国暮らしだったらしい。
「へえ。中国って言葉の発音に、小さい『つ』がないって聞くけど、本当?」と私。
「ないです。私も本当に高2くらいまでそこだけ片言だったかも。ごまかしてた」とSさん。
「もともと日本語はしゃべっていたの?」
「それこそ片言みたいにしゃべることはできた。でも高校でマスターしましたね」
聞きたいことはいろいろあるが、ともあれ、まず魚釣りの取材協力をしてもらっているのだから、魚について聞くことにした。しかし実際、私はこのあと、それこそ根掘り葉掘りみたいに中国のことを聞いている。うっとうしく思われていないといいけど(別になんとも思っていないですよ、と本人は言う)。
アジはいるけどそんなに食べられていない
「まず、中国にアジはいるの?」と私は聞いてみた。
「アジ、いますよ。でもそういえば、釣りの魚かどうかはわからないです」
「よく食べられてる?ポピュラー?」なんだか息せき切って私が片言じみている。
「いや、そんなにです。地域にもよるけれど、内陸のほうではそもそもお魚を食べないですから」
「川魚とかも?」
「ああ、絶対に食べない。淡水魚は絶対に食べない」
追ってネットの情報をあたったところ、確かに中国にもアジは生息しているらしい。ちなみにメバルもいて、ライトゲームという釣りも存在するようだ。魚食文化に関しては、むしろ盛んであるという情報があったが、私としてはやはり若い彼女の言を信じる。おそらく、幅広い食文化の一部ではあるが、ポピュラーではないということなのだろう。
ちなみに聞いてみた「どっちのメシがおいしい?」
「日本のメシがどこよりも一番うまいと海外の人も言う、というのは結構ウソ」と前にテレビで誰かが言っていた。しかし中国は近場で、日本にも中華料理文化が入ってきているくらいだから、食はまだしも近い感覚なのだろうか、と思って、「ぶっちゃけ、メシは中国と日本のどっちがおいしいの?」と質問してみた。
すると、「魚料理は間違いなく日本です。まず魚そのものがおいしいですし、やっぱりはじめて食べたときに刺身は本当におどろきました。あと、ラーメンも圧倒的に日本で、スープが何より違います。中国には醤油味しかないし、複雑な味付けがない。でも、辛い物は中国です」と答える。
「韓国の人は、なんでもキムチで辛くするって聞いたことがあるけれど、そんな感じ?」
「いや、中国は唐辛子系です。そのバリエーションと味付けは家庭にもよって違って、うちのが一番好きですよ。辛い物を食べたいなってときに、中国で育った舌で日本料理では絶対に満足できません。それで実際、中国が恋しいこともあるほどです」
ところで「科挙」ってどんなの?
彼女の持っている情報量に、なんだか圧倒されるばかりになっていて、最後に私が聞いたのは、「そういえば、科挙ってどんなの?」というものだった。
「科挙……?」と、珍しく不審そうに彼女。「科挙って、逆になんで知ってるんですか?私も習ったけど、ものすごい古い何かの大がかりな試験のことじゃなかったっけ?本当に、なんで知ってるんですか?」と笑われてしまった。後から調べたところ、17世紀の官僚登用制度の門らしい。最近『少年の君』という中国映画を見て、主人公がめっちゃ勉強しているのを「科挙の勉強なんだ」と勝手に思いこんでいたので、そういう質問が出たのである。
しかし、なんという面白い娘さんだろうか。私は最近だれかと話していて、こんなに知的好奇心をくすぐられたことはない。ちょっと中国のライトゲーム事情まで少し知ることになったのだから。まあ出不精な私が中国でアジングをすることはおそらくないだろうけれど……。しかしそれに比して彼女は非常にフットワークが軽いようで、この日持っていたバッグは「こないだベトナムに旅行に行ったときに買った」というのだから恐れ入る。
<井上海生/TSURINEWSライター>