ナマズが「地震を起こす」魚から「予知する」魚へと変わったいった理由

ナマズが「地震を起こす」魚から「予知する」魚へと変わったいった理由

日本では、地震予知に関する関心が高く、古くからナマズが地震を予知すると言われてきました。これは現在でも広く浸透しており、東京都の緊急交通路の標識にナマズが描かれているなど、地震の象徴として扱われています。この記事では、なぜナマズが地震予知の象徴となったのか、その理由を解説しています。

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地震にまつわる民間信仰

地球の仕組みが解明されていなかったころ、地震や大雨といった災害は動物や神様などの仕業と考えられてきました。それらを民間信仰といいます。

特に地震については、世界各地で「世界を支えている動物がおり、その動物が動くと大地震が起こるという信仰」(世界大百科事典(旧版)、平凡社)があったそうです。特にアジアでは、地底にすむ巨大な蛇が身動きをするのが地震であるという「世界蛇」、またそれが魚であるという「世界魚」といった信仰が共通して存在していました。

ナマズが「地震を起こす」魚から「予知する」魚へと変わったいった理由ナマズ(提供:PhotoAC)

日本でも「世界蛇」がいると考えられており、江戸時代初期までは竜蛇が日本列島を取り巻いており、その頭と尾が位置するのが茨城県にある鹿島神宮と千葉県にある香取神宮だといわれ、両神宮が頭と尾をそれぞれ要石で押さえて地震を沈めているとされていました。

しかし江戸時代後期になると、民間信仰からこの竜蛇がナマズとなり、この考えが主流になったようです(鯰(なまず)と地震と要石(かなめいし)-神使像めぐり)。

1855年に関東地方南部で発生した安政江戸地震のあと、地下にすむナマズが動くと自信が起きるという民間信仰をモチーフにした戯画が流行しました。これにより大衆に地震=ナマズというイメージが徐々に定着していったのかもしれません。

ナマズの電気受容器

ナマズは、軟骨魚類であるサメやエイが持つロレンチーニ器官と似た電気受容器を持っており、この部分で獲物や餌の場所を確認して捕食するといわれています。

ナマズが「地震を起こす」魚から「予知する」魚へと変わったいった理由ナマズには電気受容器がある(提供:PhotoAC)

この特徴から、地面からの微弱な電気を察知することで地震を予知し、上記の異常行動を起こすともいわれています。

東京都水産試験場がナマズと地震の関連を研究

では、ナマズは実際に地震に関係しているのでしょうか?東京都水産試験場では、1976~1992年まで地震とナマズの関係を研究していました。

その研究では、伊豆諸島も含む都内全域において、漁業協同組合や養殖業者、支庁村役場や土地の古老、漁業者や教育関係者、郷土館郷土史関係者を対象に聞き取り調査が実施されました。

収集された情報は哺乳類でネズミやイルカ、魚類ではナマズのほかサメやウミヘビ、オイカワやウグイ、深海魚やアジなど、淡水海水を問わず多くのサカナたちが挙がりました。それぞれ季節外れの漁獲や不良、水面を跳ねるなどの行動が報告されたといいます。

ナマズが「地震を起こす」魚から「予知する」魚へと変わったいった理由石の隙間に隠れているナマズ(提供:PhotoAC)

特にナマズについては、

1. 早い場合は1か月位前から騒ぎ始めよく獲れる。
2. 4~5日前には通常の棲み場を出て川の真中や岸に群れで現れ、水面に跳ね上がる。
3. 当日は盛んに暴れ、好・不漁双方の事例がある。
4. 季節外れの繁殖が2例ある。
5. 地震直後に海で獲れた事例と、その前後にわたりフラフラになって浮上する事例など、影響は短期間ではないとも考えられる

とまとめられています。

東京都水産試験場は、地震の前に異常行動があったとの報告をうけた動物のなかからナマズを選定し研究を開始。

選定の理由として、資料と聞き取り調査にて異常行動が数多く報告されていること、物理・科学的刺激要素を敏感に受容する側線器官と電気的刺激に敏感であること、飼育観察が容易であることが挙げられています(ナマズと地震予知 江川紳一郎-東海大学海洋研究所 地震予知・火山津波研究部門)。

この研究は約16年続きましたが、「地震の前兆とナマズの異常行動の関連は、はっきり認められない」と結論付け、実験は打ち切られました(ナマズ 地震前に暴れる…「地震の電気に反応」未だ解明されず―読売新聞オンライン)。

ナマズと地震の関係

江戸時代から続く、ナマズと地震の信仰について解説してきました。ナマズが「地震を起こす」という信仰から、ナマズが「地震を予知する」という認識に変容していく過程は興味深く、民族文献などを深堀する余地がありそうです。

科学により地震の仕組みが解明された今でも、“地震のモチーフ”とされるナマズ。私たちは知らず知らずのうちにナマズという生きものの存在を通して、地震との共存を受け入れてきたのかもしれませんね。

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<サカナト編集部>