過去にない長さとなった「黒潮大蛇行」。その影響はじわりじわりと確実に沿岸に現れています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
イセエビ大不漁の原因は「黒潮大蛇行」
紀伊半島の東側に位置する和歌山県那智勝浦町。荒々しいリアス式海岸が続くこの地域はイセエビの生息に向いた岩場が多く、そのイセエビの水揚げ量は全国有数となっています。
しかしそんな那智勝浦町では近年、イセエビの不漁が続いています。5年前の2018年には年間6tあった漁獲量が、2022年は半分以下の2.9tにまで落ち込んでしまっているのです。
この漁獲量減少は「黒潮大蛇行」が原因であると考えられています。通常は本州に沿うように流れる海流である黒潮(日本海流)ですが、2017年8月頃から四国沖で大きく南に蛇行し、紀伊半島から離れてしまっているのです。
これにより、南方で生まれ黒潮に乗って拡散されるといわれるイセエビの稚エビが那智勝浦町周辺に流されてこなくなり、資源量減少につながってしまっているとみられています。とある調査では黒潮大蛇行が始まって以降、紀伊半島南端である潮岬沖で、イセエビの稚エビが5分の1程度に激減していることが判明しています。
「熱帯魚が激増」した地域も
黒潮の影響がなくなってしまった地域がある一方で、黒潮の影響が大きくなりすぎている場所もあります。それは那智勝浦町の北にある三重県の南勢地域。
ここでは蛇行した黒潮から枝分かれした流れが沿岸部に直撃し、平均水温が黒潮大蛇行以前と比べて3℃ほど上昇しました。その結果、もともとほとんど生息していなかった「熱帯域の魚」たちが著しく増えているといわれています。
現在の黒潮大蛇行が異常なワケ
実は黒潮大蛇行自体は一般的な現象です。しかし通常は1~2年で終わるものなのですが、今回発生中のそれはすでに5年半近く続いており、異様に長い期間となっているのです。
黒潮大蛇行が長期化している理由は、はっきりとはわかっていません。ただ、正式な記録ではないものの、過去には10年以上続いたと見られる例もあるそうです。
黒潮の蛇行がこれまで通りある日突然元に戻るのか、それとも恒常的なものになってしまうのかは、まだ誰にも予測できていません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>