「パンダの食べ残しを海に沈める」という不思議な取り組みが、和歌山で実施されています。一体どのような意味があるのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
パンダの食べ残しを海に沈める
日本でもっとも飼育パンダ数が多いことで知られる、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールド。先日、ここで暮らすジャイアントパンダたちが「食べ残した竹の枝葉」を、白浜町沖の海底に沈めるという取り組みがスタートし話題となっています。
これはアドベンチャーワールドと町が連携して行う事業で、地元の漁協とダイビングショップも協力しています。
食べ残しの竹はコンクリートブロックの穴に通され、さらに重りの土嚢を取り付けられた上で海底に沈められます。今年度は30個あまりを設置したそうです。(『パンダ食べ残しの竹をイカ産卵床に 和歌山・白浜AW』産経新聞 2022..5.19)
イカの産卵床
今回沈められた竹は、実は「イカの産卵床」となることを期待されているものです。白浜町の主要漁獲物のひとつであるアオリイカの産卵を促すために行われています。
アオリイカは、海藻やあるいは海底に沈んだ木のような細いものに産卵する習性があります。そのため、竹を束ねたものは産卵床としてピッタリのものです。
また、パンダは竹が大好きで夢中で食べる一方、枝など多くの部分を食べ残してしまうといいます。アドベンチャーワールドで飼育されているパンダは7頭おり、彼らが食べ残す竹の量は1日でなんと約200kgにも及ぶそう。
これを再利用する方法が模索されており、今回の産卵床はその一環となるものなのです。
竹がイカ漁を救う?
いま、日本沿岸の広い範囲に影響を及ぼしている「黒潮大蛇行」。本来日本の近くを流れている黒潮が、なぜか南のはるか沖に離れてしまうという現象で、全国の気候や環境に様々な変化をもたらします。
黒潮の影響を大きく受ける和歌山沖では、海洋生物にも様々な影響が出ています。その一つとして白浜町域の海中では、アオリイカが産卵するはずの海藻がうまく育たない現象が起きているといいます。
いま本土で見られる海藻類の多くは、水温が高くなると生育が悪くなり、また同時に海藻を食べる魚が増えて食害も増えるため、結果として海藻の発生量が大きく減ってしまうのです。
海藻が減ることがアオリイカの産卵場所の減少につながってしまい、それによってアオリイカの漁獲が減っているという説もあります。そのため、パンダが食べ残した竹はいわば「イカ漁の救世主」となることを期待されているのです。
なおアドベンチャーワールドでは、このほか竹の幹を使って「魚のすみか」を作成する取り組みも検討しているそうです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>