日本から太平洋を挟んで正反対に位置するペルー。縁遠そうに見えますが、実はそんなペルーで獲れる魚の値段が我々日本人の家計に大きな影響を与えています。
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ペルーの「アンチョビ」が高騰
南東太平洋に面し、世界屈指の漁業大国の一つ・ペルー。そんなペルーにおける最も主要な漁獲物であるイワシの一種「アンチョビ」の第1漁期が7月24日に終漁しました。通常は8月まで行われるのですが、若干早く終漁した形です。
今期の累計漁獲量は2,434,600tとなり、これは規定の漁獲枠に対して83.9%。つまり「やや不漁」に終わったということになります。今期は漁期当初から漁獲物に稚魚が多く混ざっていたといい、漁期が終わるよりも先に、稚魚漁獲量の上限に達してしまったため終漁となったそうです。
また現在、アンチョビを加工して作る「魚粉」の記録的な高騰が継続しています。5月には1tあたり1,950ドルという価格をつけ、8月も1,920ドルと高値が続いています。今回の漁の結果を踏まえ、しばらくはこの高騰傾向が続くだろうと見られています。
養殖飼料としての影響
カタクチイワシの一種であるアンチョビは、我が国ではイタリアンの食材としてのイメージが強いです。しかし世界的には「養殖用飼料の原料」としての存在感が大きいといえます。
現在、世界的な傾向として、養殖漁業などの「育てる漁業」の割合が漁船漁業など「獲る漁業」の割合を上回りつつあります。特に人口の多い中国などアジア諸国で養殖魚の需要が高まっており、その飼料としてのアンチョビの需要も大きく高まっているという状況になっています。
我が国でも養殖漁業の割合はすでに30%を超えており、2030年代には魚介類出荷額の過半数が養殖魚となることが予測されています。
しかし、現在人気のあるブリ、マダイなどといった養殖魚の大多数は、実はその飼料をペルー産アンチョビの魚粉に依存しています。したがってアンチョビの高騰は、我々の食卓に直接的に悪影響を及ぼしてしまうのです。
進む「脱アンチョビ」
我が国の自給率をカロリーベースで計算するにあたり「輸入飼料で育てられた畜産物のカロリーは自給率に含まない」というルールが存在しています。
これはあくまで肉の話で、魚介類についてはそのようなルールがありませんが、我が国の養殖魚の多くが「ペルーからアンチョビ魚粉を輸入しないと得られていないカロリー」であることを考えれば、現状の養殖魚は真の自給品とは言えないかもしれません。
このような視点があること、また魚粉の高騰による飼料の高騰に悩まされている養殖事業者の中では、飼料に関してアンチョビ魚粉からの脱却を目指す動きもあります。その場合、廃棄される魚のあらを再利用したり、未利用魚を用いる例もあるようです。
これらは現状はアンチョビより高くついてしまいますが、このままアンチョビ魚粉高騰が続けば採算性が出る可能性はあるといえます。また変わったところでは、昆虫を養殖飼料に用いる研究も行われているそうです。
食料の自給やその飼料に関わる問題は、ロシアによるウクライナ侵攻などの情勢下で注目される「食料安全保障」にも直接関わる問題。みんなで考えていきたいですね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>