春が旬の美味なイカ「コウイカ」。全国で愛される魚介だからこその「たくさんの名前」を持っています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
コウイカ漁が解禁
山口県漁協宇部岬支店で、旬を迎えたコウイカを獲る「イカ巣網漁」が今年も解禁され、連日漁が行われています。
イカ巣網漁は、コウイカの海藻や海底に沈んだ木などに産卵する習性を利用した漁。網籠に木の枝などをくくりつけて沈めておくと、そこに産卵しようと集まったイカが網籠に入り込むのです。
4月7日には初水揚げがあり、翌8日には市地方卸売市場で競りに掛けられ、市内のスーパーや鮮魚店に並びました。今季は現状ではあまり好漁ではなく、昨年の寒さが影響しているのではないかと漁師は見ているそうです。(『県漁協宇部岬支店コウイカ漁、水揚げ始まる【宇部】』宇部日報 2022.4.8)
東日本はスミイカで西日本はハリイカ
コウイカは、胴の部分に炭酸カルシウムでできた「甲」を持つイカ類の代表種です。
独特な見た目や知能の高さなどといった様々な特徴を持ちますが、特に知られるのが「大量の墨を吐く」こと。墨袋が大きく、漁獲されたときに大量の墨を吐くので漁師や釣り人に恐れられます。このことから、関東では「すみいか」と呼ばれることが多く、市場でも墨にまみれた状態で販売されます。
また、前述の「甲」の先端がコウイカの場合は強く尖っており、尾部を触るとそれが手に刺さります。そのため関西では「はりいか」と呼ばれることが多いようです。
面白いのは、標準和名である「コウイカ」と呼ぶ地域が少数派であること。甲を持つイカはコウイカ以外にもたくさんおり、その中でも特に美味しいものとしてコウイカを区別する必要があったため、あえてコウイカと呼ばなくなったのではないかと思われます。
「新イカ」もコウイカ
そんなコウイカですが、ちょっと変わったところでは「シンイカ」と呼ばれることがあります。これは「新烏賊」であり、つまりイカの新仔ということです。
シンイカは、初鰹やコハダのシンコなど「初物」を尊ぶ江戸っ子が愛した魚介のひとつで、コウイカの新仔を指します。甲長が5cmほどの小さな子イカで、丁寧に開いて1匹1貫ツケの寿司にされるのが基本です。
コハダ同様にもともとの価格が親と比べると高く、さらに捌くのにも手間がいるため、寿司ネタとしてはかなり高級な部類となります。食味は柔らかく、爽やかな甘味があり、親と比べると趣がやや異なります。初夏の江戸前寿司ネタの顔のひとつといえるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>