カキの養殖といえば「カキ筏」を用いるものというイメージが強いですが、世界的には別の方法が主流のようです。
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新たな手法のカキ養殖
熊本県荒尾市の荒尾漁協で、全国的にも珍しい方法のカキ養殖試験が始まっており、注目を集めています。
この養殖では、干潟に立てたパイプの間に紐を渡し、カキの幼貝を入れたプラスチック製のかごをそこにぶら下げるという方法でカキを育てます。
潮が満ちるとかごが海中に浸かり、引くと再び水上に出るという状態になります。そのため、一見するとカキが乾燥して弱ってしまいそうにも見えますが、この方法で養殖されたカキはむしろ一般的なカキと比べると濃厚で、身の詰まりも良くなるといいます。(『荒尾漁協で進むカキの養殖 味も違いが? 全国的にも珍しい方法の養殖とは【熊本】』熊本放送 2022.3.29)
なぜ空中に出す?
この養殖法の鍵となるのは、干潟の干満差を利用し、カキを海中に浸けたり出したりするということ。
空中に露出したカキは乾燥してしまう危険性にさらされますが、そうならないようカキは殻を固く締めるための筋肉を発達させたり、また摂取した栄養を生殖ではなく成長のためのエネルギーに振り分けます。そのために身が肉厚になるのです。
また、浅く栄養塩の多い干潟は、カキの餌となるプランクトンが豊富に生息しています。その意味でも、干潟でカキの養殖を行うのは理にかなった行為であると言えます。
世界ではメジャーな「干潟養殖」
日本では、陸から離れた水深のある場所に、カキの稚貝をつけたホタテの殻をいくつもぶら下げて育てる「カキ筏」での養殖が主流です。
この方法では、カキが纏まって水揚げされるため、むき身などへの加工・出荷が行いやすくなるのですが、一方でオイスターバーなどで提供するような「殻付き」で出荷するためには切り離しなどの作業が必要となります。
そのため、基本的に殻付きのまま流通するヨーロッパでは、かごを用いる養殖のほうが一般的です。フランスなどではかごを用いず、直接干潟にカキの稚貝を撒いて育てるという方法もあるそうです。
筆者は自分でもよくカキを採って食べているのですが、沖合の水深のある場所で育ったカキより、干潟で育ったカキのほうが味が濃く美味しく感じることが多いです。なので、日本でももっと干潟養殖が盛んになると個人的には喜ばしいなと思っています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>