「イライラするから」という理由で名前を付けられてしまったかわいそうな魚をご存知でしょうか。
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「イライラさせられる魚」とは
この時期市場に行くと、やたらと顔が大きく、カラフルな魚を見かけることがあります。その魚は体高があり、頭部が大きく、口が尖っていて歯が見えており、やや派手な体色の中に斜めの黒線が目立っています。
この魚は「イラ」というもので、ベラの仲間の一種です。大きいものだと40cmを超えることもあり、南の方の磯で釣りをしていると時々出会うことがあります。
このイラ、漢字で書くと「伊良」なのですが、ときどき「苛魚」と書かれることがあります。これは、生きている個体を触ろうとすると手に噛みつこうとするため、非常にイライラするからだそうです。
不思議な地方名の多い魚
このイラ、標準和名自体もちょっとユニークですが、その地方名はもっとユニークです。
静岡ではケサと呼ばれるが、これは体側に袈裟懸けに黒い帯が入っているから。そしてこの帯模様から「バンド(band)」と呼ぶ地域もあります。
さらに福岡では「ポッポ」と呼ばれています。これは当該地域で昔から「ハト」と呼ばれてきたことに由来するようですが、そもそも「なぜハトなのか」についてはよくわかっていないようです。
徳島県では「テスノゲ」と呼ばれますが、これはアマダイやブダイなど「大型のベラ系の白身魚」全体をテスと呼ぶ文化があり、その中で評価が低いため「テスの下」となったようです。
その他にも長崎の一部地域では「オオガン」と呼ばれており、これは「顔が大きいから」だと言う説があります。
冬だけは高級魚?
イラの生息数は少なくはなく、周年漁獲される魚ですが、暖かい時期はあまり流通することはないようです。コブダイなどにも言えることですが、ベラ科の魚であるイラは体表の粘液が多く、水温が高い時期は粘液が臭くなったり、身が磯臭くなりがちで評価が低くなるのです。
一方で、晩秋から春先にかけての低水温期にはそこそこの高値がつくことも。臭みがなくなると同時に、身が締まり甘みが増して美味しくなるためです。この時期ばかりは、体型の似たアマダイと比較されることもあるほど美味しく、高級魚と言っても問題ないでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>