大分県南部に古くから伝わる魚料理「ごまだし」。「古のインスタント食材」と呼べそうなこの料理は、マイナーで「嫌われ者」のとある魚から作られています。
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「ごまだし」の日
大分県南部に位置し、複雑で長い海岸線を持つ漁業都市・佐伯市。この佐伯市で、名物である「ごまだし」を売り出していこうという試みのもと、11月10日が「佐伯ごまだしの日」に制定されました。
これは市内の飲食店などで作る「佐伯ごまだし暖簾会」による試みです。「11」が「いい」と読めることや1が並ぶ様子が「茹でる前のうどんの麺」に似ていること、また「10」は棒と丸を「すり棒とすり鉢」の形になぞらえられることや魚を意味する古語「とと」を連想させる、といった理由から、この日に制定したとのこと。
佐伯市では今後、毎月10日には佐伯市内のスーパーで「ごまだしの日」ののぼりを掲示するなどして、ごまだしの宣伝を強化するということです。(『「佐伯ごまだしの日」11月10日が記念日 11が「いい」と、うどんの形、10はすりこぎとすり鉢 /大分』毎日新聞 2021.11.20)
伝統的インスタント味噌汁「ごまだし」
「ごまだし」は、焼いた白身魚を胡麻と一緒に練り、醤油などを混ぜて作られる食材です。佐伯市に百数十年前から伝わる調味料で、保存性があるので作り置きしておいて、食べたいときにすぐに食べることができます。
味噌と具が一緒に練ってあるため、お湯に溶くだけですぐに味噌汁になることから「インスタント味噌汁」としても食べられてきた歴史があります。現在ではゆでたうどんにごまだしをのせて湯をかけ、「ごまだしうどん」として食べるのが一般的だそうです。
ほかにも、お茶漬けのトッピングにしたり、野菜などとあえて一品料理にしたりと、万能調味料として欠かせない存在なのです。
ごまだしに欠かせないエソ
ごまだしは元々、漁師の家庭で「エソ」という魚が大量に採れた時の保存食として作り始められたものです。
エソは浅い砂泥底の海に生息する細長い魚で、大きいものは1m近くにもなります。いくつかの種類がありますが、いずれも獰猛なフィッシュイーターで、まるでワニのように大きく裂けた口が特徴です。
釣りの世界ではヒラメやマゴチなどの高級魚の外道になるほか、シロギス釣りなどでせっかく釣れたシロギスに噛み付いてしまうために嫌われています。また漁においても、一般知名度の無さからあまり高値がつかず、いわゆる未利用魚とされてしまうことも多いです。
彼らは小骨が多く、焼き魚や煮魚などにしても食べづらくて美味しくありません。ただ身の味はかなりよく、焼いてほぐして練る「ごまだし」にはピッタリの魚であったといえます。
また、エソはすり身原料としては非常に高級なもので、練り物産業には欠かせない存在なのです。「外見は悪いが身は美味しい魚」の典型であると言えるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>