海に面していない栃木県で、海水魚の代表格とも言える「スズキ」が釣れたことが話題になっています。実はこれ、その習性を考えれば全く不思議なことではありません。
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栃木県でスズキが釣れた
栃木県南地域の代表都市・小山市を流れる思川。この川ではここ数年、海水魚であるスズキが釣れており、話題になっています。
思川は利根川の最大支流のひとつである渡良瀬川の支流のひとつで、千葉県銚子市にある河口からは実に100km以上も遡った場所になります。流れる水はもちろん淡水なのですが、スズキはここ3年位でかなり釣れるようになっているといいます。
とくに渡良瀬川と思川の合流地点ではコンスタントな釣果が上がっているそうで、80cm近い大物を釣り上げたとの報告もあります。思川の淡水魚に詳しい地元小学校の校長は、思川のスズキについて「十数年前までは聞いたこともなかった」と話しているそうです。(『河口から100キロ超なのに・・・ 釣れたのは海の魚シーバス! 小山・思川』下野新聞SOON 2021.9.19)
なぜスズキが「内陸県」で釣れる?
スズキは我が国における代表的な海水魚のひとつで、海水魚の大部分を占める「スズキ目」の魚の代表種でもあります。海に面していない栃木県で釣れるのは不思議に思われるかもしれません。
しかし、実はスズキは淡水内でも生きることができます。彼らは体内の浸透圧を調整する機能がとても高く、海水魚ながら淡水内に入っていけるのです。
スズキはもともと浅い内湾や河口付近を好んで生息する魚で、春から秋にかけては好物のアユを追って河川を遡り、純淡水域まで入り込むこともよく見られます。スズキ釣りの盛んな高知県四万十川流域では、何十kmも川を遡るスズキを「山スズキ」と呼んでいるそうです。
意外といる「川を上る」海水魚
スズキのように浸透圧調整機能を持ち、河川に入り込む海水魚は実は少なくありません。
例えばボラはしばしば純淡水域で見られ、魚を見慣れた釣り人たちでもびっくりさせられることがあります。淀川に堰がなかった時代には、なんと琵琶湖で確認されたこともあるということです。
また、エイの一種であるアカエイも、しばしば河川内で釣り上げられることで知られています。同じく海水魚でありながら純淡水域にも生息するマハゼを好み、河川に入り込むようです。
このような海水魚にはいずれも「もともと浅い内湾に棲む魚」という共通した特徴があります。このような場所は流れ込む河川が多く、塩分濃度が低い汽水域が広がっているほか、淡水と海水が混ざり合わず2層構造になっているような場所もあります。
こういった場所に暮らすためには浸透圧調整機能が高い必要があり、結果として河川内に入り込む事ができる魚が集まっているのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>