いま、日本各地で問題になっている海洋温暖化。最もその影響が現れている北海道で、「新しい魚」を売り出すキャンペーンが行われています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
北海道で「新顔」の魚たち
太平洋、日本海、オホーツク海の3つの海に囲まれ、北方系の魚の水揚げが多い北海道。そんな北海道で9月から、マイワシ、ブリ、ニシンの消費拡大キャンペーンが始まることとなりました。これらの魚はここ数年、道内で水揚げが急増しているもので、マイワシとブリに関しては以前は道内ではさほど水揚げされていなかった、いわば「新顔」です。
消費拡大キャンペーン
消費拡大キャンペーンでは、道内の飲食店にそれぞれの魚を使った創作メニューを考案、提供してもらい、それを道が宣伝するという形を取ります。飲食店を地域ごとに紹介するパンフレットを作り、道民へのキャンペーン普及を図るそうです。
またそれに合わせ、家庭で作りやすいレシピ集も魚種ごとに作成して全道で配布します。それにより当キャンペーンをコロナ禍に苦しむ飲食店や漁業者の支援にもつなげたい考えです。(『水揚げ急増のマイワシ、ブリ、ニシン 北海道、消費拡大へ「おいしさ」発信』北海道新聞 2021.8.8)
海水温の上昇
ここ数年、温暖化や海流の変化もあり、北海道周辺の海水温が著しく上昇しています。今年の夏には日本周辺の海の中で、北海道近辺が一番高温になるという珍事も発生しました。
そしてそれに伴い、本来冷水域を好む魚であるスルメイカやシロザケが接岸できなくなっていると見られています。ホタテやコンブなどの主要養殖物も不漁に陥っており、引き網漁ののサンマのように壊滅的不漁となるものも出てきています。
これらの冷水系魚介類が主要漁獲物だった北海道において、現状の高水温状態が続けば漁業全体が致命的なダメージを受ける可能性があります。そのため代替となる漁獲魚を早急に確保する必要があり、受け皿となる需要を創出すべく上記のようなキャンペーンが行われているのです。
ブリやイワシが代表格
北海道周辺で温暖な海域を好むブリが豊漁となり話題になったのは昨年秋のこと。それ以降ブリが漁獲される範囲は広がり、ついに道東オホーツク海でも狙って捕れるほどになりました。北海道内でも比較的水温が低い知床でもサケの定置網にブリが入るようになっています。
また近年は日本海側において、大型クロマグロの漁獲が増えているそうです。これまでは対馬海流から津軽海峡に流れ込む暖流に乗って太平洋方面へ回遊するマグロが多かったのですが、そのまま北海道沿岸を北上する個体も増えているようです。
函館港では昨年イワシの大量死が話題となりましたが、いまや道南近海で一番の資源量を誇るのはイワシだともいわれています。サンマの漁獲減に伴い、生態の似ているイワシが増えてきていると見られます。「暖流の申し子」ともいわれるシイラすらも見られるようになり、これを狙う遊漁船も出ているそうです。
このまま水温上昇が続けば、より南方系の魚、例えばハタ類のような高級魚も増えていくかもしれません。ただしそれが良いことかというと……なかなかそうは思いたくありません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>