「本マス」と呼ばれ高い需要を誇るサクラマス。近年数を減らしており高級魚となっていますが、養殖が試みられ、良い結果を出しているようです。
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岩手で養殖サクラマスが水揚げ
三陸海岸の主要都市のひとつ岩手県釜石市。ここにある釜石魚市場でこの度、養殖のサクラマスが初めて水揚げされ競りにかけられたことがニュースとなっています。
6月10日に水揚げされたのは、釜石湾内の養殖施設で育てられたサクラマスおよそ2t。このサクラマスは、釜石市と岩手大学が地域の水産会社や漁協などと連携し昨年より取り組む「海でのサクラマスの養殖試験」によって生産されたものです。
サクラマスは最大で10kgほどになりますが、今回水揚げされたものは1~2kgほどの小ぶりな魚体が中心。1kgあたり800円から900円、高いもので1,200円ほどの価格で競り落とされたそうです。(『岩手県・サクラマスが釜石港に初水揚げ』テレビ岩手 2021.6.10)
釣り人に愛されるサクラマス
日本を代表する花「サクラ」の名を関したサクラマスは、名前の通り日本を代表するマスです。サケと同じように川と海を行き来する「両側回遊性」を持つ魚ですが、一生海に降りずに河川の渓流域だけで過ごす個体もあり、そのようなものは「ヤマメ」と呼ばれます。
若いうちは体側に「パーマーク」と呼ばれる独特の円形模様がありますが、これは成長に従って消え、成魚であるサクラマスはサケと同じ銀色の体色になります。
もともとは神奈川以東の東日本に生息する魚なのですが、近年は放流により西日本にも分布域が広がっています。「ヤマメ」は渓流の女王と呼ばれ、川釣りにおける最も人気の対象魚として知られていますが、「サクラマス」は海釣りで非常に人気のある釣り物となっています。
養殖需要も高いサクラマス
サクラマスは北日本の広い地域で「本マス」と呼ばれています。その呼び方からも分かる通り、マス類で最も食味が良いものとして認識されています。
サクラマスを用いた郷土料理も多く、長野の「塩鱒」や富山の「ますのすし」などが現在も残っています。そのため価格も安定して高く、また最近は資源量の減少からカラフトマスなど他魚が代用されている事情もあり、サクラマス養殖物の需要は常に高いようです。既存の養殖サクラマスには、新潟県佐渡島で海面養殖されている「佐渡サクラマス」がありますが、ニジマスやギンザケなど他のサケ科魚類に比べるとまだまだ少ないのが現状です。
また、今回養殖を始めた岩手においては、秋サケやサンマなどこの地域における主要な漁業種がここ数年不漁に見舞われており、回復の兆しがないという現状があります。「養殖サクラマス」は、それらの不漁によるダメージを軽減させる存在としても期待されています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>