温かい海の生態系を支えるサンゴ。その産卵シーンが鹿児島と沖縄で続けて撮影されました。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
サンゴの産卵が撮影される
遠浅で透明度が高く、サンゴの生育に向いた海域が広がる沖縄・石垣島周辺。そんな同島北部の明石沖で、5月末にサンゴの産卵が確認されました。
地元のダイビングショップスタッフが撮影に成功し、ニュースで公開されると、その神秘的な様子にたちまち話題となりました。産卵が行われたのは夜も更けた22時頃で、水深約10メートルの海底に広がるサンゴから、直径約1mmほどのピンク色の「卵」が一斉に放出される様子が映像に収められています。(『沖縄・石垣島でサンゴの産卵を確認』朝日新聞 2021.5.31)
また同じく南西諸島にある鹿児島・奄美の加計呂麻島でも、今月頭にサンゴの産卵が確認されています。こちらは水深3~8mの場所で、テーブル状のウスエダミドリイシなど約10種が次々に産卵したといいます。(『夜の海に漂う「命の粒」 サンゴ産卵期迎える 奄美・加計呂麻島』南日本新聞 2021.6.4)
サンゴの一斉産卵
サンゴ礁を造る「造礁性サンゴ」と呼ばれる種のサンゴには、初夏のこの時期に産卵期を迎えるものが多くあります。産卵は基本的に夜間に行われ、同じ地域に生息するサンゴたちが、満月に近い夜に一斉に産卵を行うことが知られています。
この「サンゴの一斉産卵」は、ときにものすごい規模になることがあり、世界最大のサンゴ礁群として知られるグレートバリアリーフで行われる一斉産卵は「世界最大の繁殖活動」とも考えられているそうです。
サンゴの産卵では、サンゴの本体である「ポリプ」から、ピンク色の”卵状のもの”が放出されます。これは「バンドル」と呼ばれるもので、複数の卵と精子がセットになったカプセルです。これが水面に到達するとはじけ、受精が行われるのですが、産卵規模が大きい場合は海面は赤く染まることもあるといいます。
サンゴの卵は貴重な食料
サンゴ礁はその海域の生物たちにとって隠れ家となり、また食料にもなります。そしてその卵もまた、各種のサンゴ礁に暮らす生物たちの貴重な食料となっています。
大量に放出されるバンドルですが、その多くは成長することはなく、そのまま魚たちの餌となってしまいます。一つ一つのバンドルは小さいですが、非常に大量に排出されるため、サンゴの産卵はそれを餌にする生き物たちにとっても一大イベントなのです。
そのためサンゴが産卵を行う時期になると、サンゴ礁には様々な生物たちが集まります。世界最大の魚ジンベエザメもそのひとつ。動物性プランクトンを主食とするジンベエザメにとって、サンゴのバンドルは格好の食料で、その大きな口を開けて何百何千というバンドルを文字通り一口で飲み込んでしまいます。
西オーストラリアのサンゴ礁のある海域では、サンゴ産卵期の前後になるとジンベエザメが集まってくることがわかっています。サンゴの産卵はそれ自体だけでなく、バンドル目当ての生き物たちの観察にもまた向いている時期だと言えます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>