食用としても釣りのターゲットとしても大人気のタチウオ。実は飼育は難易度が高く、展示はレアケースのようです。
(アイキャッチ画像提供:週刊つりニュース編集部)
生きたタチウオが展示
静岡県静岡市にある東海大海洋学部博物館。この博物館の1施設である海洋科学博物館で、4月下旬より「生きたタチウオ」の展示が行われ、話題となっています。
タチウオはごく一般的な魚ではあるもののその飼育は難しく、水族館での展示ができた例もさほど多くはありません。同博物館では今回、約22年ぶりの展示となるそうです。
飼育下ではタチウオ独特のユニークな「立ち泳ぎ」も観察できます。博物館ではアジの切り身などを与えながら、引き続き慎重に飼育を続けていくとのことです。(『珍しい! 生きたタチウオ、22年ぶり展示 静岡・東海大海洋科学博物館』静岡新聞 2021.5.31)
駿河湾のタチウオ
全国各地で食用にされるタチウオですが、静岡、とくに駿河湾では漁獲量が多く、非常に愛されている魚です。静岡市の前海で穫れる美味な魚「しずまえ鮮魚」のひとつとしても知られます。
駿河湾は「駿河トラフ」という海底の溝が太平洋から深く差し込んでおり、外海から直接流れ込む海流と、何本もの大河がもたらす栄養豊富な淡水が直接混ざり合っています。そんな環境にある静岡の前海は、タチウオの餌となる小魚が豊富に生息しており、タチウオが大きく美味になるのです。
また、タチウオは食材としてだけではなく、釣りの対象としても非常に人気が高い魚です。浅場とやや深い場所を一日のうちに行き来するタチウオの生態と、急深な海岸が広がる駿河湾との相性はよく、沿岸の各地で気軽にタチウオを釣ることができるため、コロナ以前はシーズンになると首都圏からも多くの釣人が駆けつけました。
「立魚」?「太刀魚」?
タチウオの生体展示でもっとも注目されるのは、おそらくその「泳ぎ方」でしょう。彼らには尾びれがなく、平べったい蛇のような形をしていますが実は背びれがとても発達しており、波打たせるように器用に動かしながら水中で縦横無尽に動き回ることができます。
そして、水中でピタッと止まる「ホバリング」もすることができるのですが、このとき、頭を上に、尾を下にしたポーズをとるので「立ち泳ぎ」しているように見えるのです。そのため「立魚」という名前がついた、という説があります。
その一方、その平べったく尖った形状と美しい銀色の体色もまた、タチウオという魚の大きな特徴です。その見た目がサーベル(太刀)のように見えるから太刀魚と名付けられたという説もまた非常に説得力があります。
ちなみに福島ではサーベルがなまった「サワベル」という地方名があるほか、英名でもサーベルフィッシュ、あるいはカトラスソードになぞらえたカトラスフィッシュという名前もあるそうです。漢字でも「太刀魚」のほうがよく使われているようなので、こちらの説のほうが信憑性が高いのかなという気もしますが……実際はどちらなのでしょうか。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>