いまや深海生物の中でも最も有名なものとなりつつあるオオグソクムシ。各地の水族館に展示され、そのキモかわいさが話題ですが、実は食用としても徐々に知られ始めてきています。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
オオグソクムシのぼり
日本一深い湾である駿河湾に臨み、深海漁が盛んな静岡県沼津市戸田。ここにある深海魚情報発信拠点「ヘダトロール」では、GWの間、こいのぼりならぬ「オオグソクムシのぼり」が掲げられ、話題になりました。
オオグソクムシのぼりの大きさは1mほどで、脚のたくさん生えたのぼりが空に泳ぐ姿が「キモかわいさ」がうまく表現できていると評判です。
ヘダトロールでは実際のオオグソクムシも飼育されており、生きて動く様子が無料で観察できます。最近では「深海生物好きの聖地」とも呼ばれる戸田の新しい名物のひとつともなっているようです。(『沼津で「オオグソクムシのぼり」掲揚 深海生物が「空を泳ぐ」』沼津経済新聞 2021.4.20)
「深海のダンゴムシ」オオグソクムシ
オオグソクムシは水深200m前後に生息する深海性の甲殻類です。大きさは15cm程度で、見た目は陸上性のダンゴムシやワラジムシそっくりですが、生物学上も等脚類という同じグループに属しています。
肉食性ですが腐肉食のいわゆる「スカベンジャー」で、主に死んだ魚などを食べ、深海の掃除屋として知られています。オオグソクムシは深海生物ではあるものの、水深や水圧の変化にはかなり強いようで、陸上の水槽内に入れていてもしばらく生きています。
そのため最近では各地の水族館で飼育されているほか、個人的にペットとして飼う人もいるようです。穏やかな性質も合わさり、かつての「気持ち悪い生物」というイメージはすっかり消え失せ、今では人気生物のひとつと行っても過言ではない存在です。
なお日本近海では見つかっていませんが、近縁種には体長30cmほどにもなる「ダイオウグソクムシ」というものも存在しています。
美味しいオオグソクムシ
オオグソクムシはそのダンゴムシに似た見た目からはなかなか想像できませんが、実はかなり味が良い生き物です。偏平で肉量こそ少ないものの、濃厚な旨味があり出汁もよく出ます。味わいとしてはカニやシャコに近いです。
かつてはヌタウナギ漁などで混獲され廃棄される存在でしたが、その美味しさもあっていまでは商業的に漁獲されています。とくに、戸田同様に深海漁の盛んな静岡県焼津では、このオオグソクムシが町おこしの材料にも活用され、せんべいなどの商品に加工されています。
過去にはなんと、ふるさと納税の返礼品になったことも。「深海のダンゴムシ」は今や静岡の街に欠かせない存在になりつつあるのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>