今回は古くから釣りイトの材料として利用されてきた「馬素(ばす)」やテンカラ釣りについて紹介したい。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター片桐真流)
『馬素』について
【馬素/ばす】馬の尾の毛。釣り糸・織物などに用いる。
馬素(ばす)とは馬の「尻尾の毛」の呼び名であり、世界的には古代ローマ時代から釣り糸として使われてきた歴史がある。日本でも江戸時代に馬の尻尾を釣り糸として使った文献が存在している。
馬の尻毛の一本一本は細く弱いが、数本束ねて撚ることで重量が増し、強くしなやかになり、軽い毛バリを飛ばすには最適なライン素材となる。
馬素ラインの製作方法
その製作方法は、馬の尻尾を指の中でコロコロと転がすようにして撚り合わせていき、更に撚った馬素どうしを撚り合わせて1本の太い撚糸(ねんし)に仕上げていく。
撚りの末端を結んでひと節ずつ仕上げていくことで、撚り数を調整しながら各節をノット(結び)で連結しながらラインに「テーパー」をつけていく。
自然素材ということもあり、水に濡れると癖が無くなり、毛バリを思いのポイントへキャスト可能となる。ナイロンラインにはない重量感と感覚が竿を持つ手にもしっかり伝わってくるのが特徴だ。
ラインが重いため、おつり(ラインが戻ってくること)が多くなるなどの難しさがあるが、テンカラ釣りの歴史を肌で感じられ、釣り師にとっては自在に使いこなせるようになる価値がある素材である。
ナイロン製の釣り糸が一般的に発売される前には、馬素は釣り用ラインとして主役の座にあったようだ。
『テンカラ』について
テンカラとは、渓流に棲むイワナやヤマメを「毛バリ(けばり)」で釣る方法のことで、釣りに必要な「六物:サオ、イト、ウキ、オモリ、ハリ、エサ」を限りなく削ぎ落した「サオ、イト、ハリ」の「三物」で構成されるシンプルな釣りである。
テンカラという呼び名は今から40~50年前が始まりと言われているが、語源や発祥地など明確な詳細は今でも不明である。
諸説あるが、歴史上テンカラが初めて登場したのは秋田県で、その周辺地域の古い言葉で「テンカラ」と言えば「蝶々」のことで、毛バリを「ちょんちょん」と、蝶が水面に触れるように誘う様子が語源、という説もある(一説では、明治以前からテンカラと呼んで毛バリ釣りを楽しんでいた地域もあったようだ)。
逆さ毛バリとは?
毛バリの発祥は、ヨーロッパでは紀元前、日本でも同時期に鳥の羽を巻いて擬餌針を作るという発想があり、日本では海釣りに使われたのが最初とも云われている。
毛バリは鳥の羽(ハックル)の表面をフックのアイ側に向けて、羽が後ろになびく形になるように巻くのがスタンダードだが、ハックルの向きを敢えて逆にして、アイ側に開く形にしたのがテンカラ釣りで使用する「逆さ毛バリ」である。
水中で流れの抵抗を受けながら、フワフワと生命感のある漂いで魚にアピールをすることが出来る。
フライフィッシングのマッチングザハッチ(ターゲットである魚が何を捕食しているかを見定めて、水生昆虫の成長時期やフィールド環境に合った毛バリで釣ること)の発想とは異なるプレゼンテーションだ。
渓流魚であるイワナは山深い場所(1500~3000m)の源流域に生息する魚で、その昔、専門に釣っていたのは、冬は熊撃ち猟、夏は渓流の職業漁師、「マタギ」である。山岳渓流においての毛バリは「秋田マタギ」が伝えたなどの諸説もあるが、「イワナ釣り」としての記録は元禄年間(1688-1704)まで遡れる。
山間に暮らす人々が貴重なタンパク源を得るために生活に必要であった「生きる知恵」、伝統的な釣りが「テンカラ」であると言えるだろう。シンプルで潔く、無駄のない「日本人らしい」釣りスタイルが、個人的には非常に魅力的で好感が持てる。
近年は熱心な普及者の努力のおかげで、海外でも「TENKARA」として人気があり、世界的にも認知度が高まっている。