有名回転寿司店のキャンペーン商品で話題となっている深海魚「アブラボウズ」。名前が似ているけど「絶対に混同してはいけない」別の深海魚がいます。
(アイキャッチ画像提供:うみMEMO)
格安回転寿司に「アブラボウズ」が登場
大手回転寿司チェーンの「スシロー」で先般、幻の魚とも言われる「アブラボウズ」が登場し、注目を集めました。
アブラボウズは、様々な「トロ系魚」にフィーチャーした期間限定フェア「とろとろ祭り」の目玉となるひとネタ。生のものと炙りが1貫ずつ乗った一皿で150円(税抜)と、その安さも含め話題となりました。(『スシロー「とろとろ祭」に深海魚アブラボウズ登場、本鮪大トロ・和牛サーロインやうにクリームコロッケ・クリームティラミスも』食品産業新聞社 2021.3.2)
SNSなどで話題になったこともあり、首都圏の店舗では注文が相次いだようです。一人で何皿も食べる例もみられたそうで、人気が高くあっという間に売り切れになった店舗もありました。
アブラボウズとは
アブラボウズは、一部の地域を除き全くメジャーとは言えない魚です。それは彼らが水深1000mくらいの場所に棲息する深海魚であり、水揚げされる場所がごく限られているというのが理由です。
大きくなる魚で、成長すると1.5m、50kgを超えカサゴ目では最大になります。焼き物や煮付けで高い人気のあるギンダラと近い仲間で、全身の肉にみっちりと体脂肪を含んでいます。
その味わいから時に「全身大トロ」とも表現される魚で、近年の脂ブームもあり、密かに人気の高まっている魚です。水揚げが少ないこともあり「幻の絶品深海魚」とメディアで呼ばれることも。古くから深海漁業が盛んな小田原周辺ではとくに珍重され「オシツケ」という名前で高値で取引されています。
「アブラソコムツ」との混同に注意
さて、このアブラソコムツ同様に1000m前後の深海に生息し、大きく成長する深海魚で「アブラソコムツ」という魚がいます。こちらもアブラボウズ同様に体脂肪率が非常に高く、海外では「オイルフィッシュ」「ホワイトツナ」と呼ばれています。
釣り人でこの魚を好んで食べる人もおり、彼らはこの魚もまた「全身大トロ」と表現しがちですが、しかしながら彼らを同様に扱うことは、実は決してやってはいけません。
アブラボウズの脂肪の大半は「トリグリセリド」であるのに対し、アブラソコムツの脂肪の大部分は「ワックスエステル」というもので、脂質として全く異なるものです。トリグリセリドはいわゆる「中性脂肪」の一種で、我々ヒトが消化可能であるのに対し、ワックスエステルは多くの人が消化することができません。
そのため、アブラソコムツを食べると多くの場合、消化できない油が肛門などから漏出する事態に見舞われます。そのためこの魚は食品衛生法によって流通が禁止されているのです。
アブラボウズは食べられる
アブラボウズとアブラソコムツはどちらも深海魚、かつ互いに名前がよく似ていることもあり、ネットでこれらの魚を混同している例は多々見られます。今回もSNSで「大手寿司屋がアブラソコムツを提供した」という事実誤認の発言が散見されています。
思い込みによるこのような発言は、仮に故意でなかったとしても名誉毀損などの恐れもあります。この記事を読まれた方はどうか勘違いされることのないようご注意ください。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>