福井県沖の海に仕掛けられた蛸壺に入っていたのは、なんと南方系の猛毒タコ・ヒョウモンダコ。なぜ冬の日本海で発見されたのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
冬の福井でヒョウモンダコが発見
リアス式海岸で知られる若狭湾に面する福井県美浜町。日本海に面し、豪雪地帯としても知られるこの町で先月下旬、なんとヒョウモンダコが発見され、ニュースとなっています。
ヒョウモンダコは漁師が仕掛けた蛸壺の中から発見されたそうで、捕獲された個体は体長7cmほど。この大きさでも成体ですが、10cm前後ある通常個体に比べるとやや小さいといいます。それでも水槽の中で活発に動き回り、寒さで衰弱しているような様子は見せていないそうです。
美浜町の沖合には暖流である対馬海流が流れており、暖かい時期にこの海流に乗って移動してきた可能性が高いといいますが、その一方で日本海で繁殖した可能性も考えられるとのことです。(『冬の日本海にヒョウモンダコ「大変珍しい」 福井県沖で捕獲、本来は暖かい海に生息』福井新聞 2021.2.1)
海の「温暖化」が影響か
ヒョウモンダコは本来かなり南方系のタコで、房総半島以南や小笠原諸島、南西諸島の沿岸サンゴ礁域など、太平洋側の暖かい海に多く棲息しています。日本海で見つかるのは大変珍しく、過去にも数えるほどしかありません。
しかし近年は棲息域が北上する傾向にあるようで、相模湾北部や兵庫県の瀬戸内海沿岸などでも発見されています。他の海洋生物同様、海の温暖化の影響も大きいのではないかと考えられています。今後は茨城県以北の太平洋側や石川県以北でも見つかる例が増えてくるでしょう。
致死的な毒にご用心
ヒョウモンダコは食用にされるマダコやミズダコ、イイダコなどと比べても非常に小さい小型のタコですが、そのサイズに見合わない非常に強い毒を持つことで知られています。
その毒成分はなんとあの「フグ毒」テトロドトキシン。主に唾液に含まれており、不用意に捕まえると噛みつかれてしまい、しびれ、血圧低下、神経麻痺、呼吸困難などの重篤な症状が発生します。海外では死に至った例もあるようです。
フグ毒なので死んだあともその作用は残るため、もちろん食用にすることもできません。釣りや磯遊びなどで出会ってしまうことがありますが、すぐさまリリースするのが無難でしょう。
なお、ヒョウモンダコはその名前の由来となった青い「豹紋」が有名ですが、実はこの豹紋は興奮したときにしか現れません。生きているときは地の色合いも地味で、イイダコなど他の小型タコと間違ってしまうリスクもあります。浅い海で小型のタコを見かけても、不用意に触るのはやめたほうが良いでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>