年越しに欠かせない高級食材のひとつイクラ。我が家ではお雑煮にイクラを数粒乗せるのが習わしとなっているのですが、しかし今年はそういうわけにもいかないかもしれません…。
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旬のイクラが高騰
秋になり、スーパーの店頭に生鮭の切り身が並ぶようになる頃になると食べたくなるのがイクラ。年末商戦をにらみ、例年であればたくさんのイクラが店頭に並ぶ時期なのですが、今年はちょっと様相が違っているようです。
旬を迎えたはずのイクラですが、11月中旬の東京・豊洲市場の北海道産イクラの中心卸値は、しょうゆ味のものが前年同期比から4割高となる7,000~8,500円/kgと高値をつけており、塩味に至っては5~6割高の9,000~11,000円/kgという状況に。卸業者によれば「こんなに高い生筋子を販売しているのはいまだかつてないこと」だといいます。
この高騰に加え、新型コロナ感染症の再拡大による外食自粛や高級魚介類敬遠の影響もあり、荷動きは例年にないほど鈍く、関係者は気をもんでいるといいます。(『イクラ 道産しょうゆ4割高 マス製品 不漁で7割高』みなと新聞 2020.11.26)
価格高騰の理由
鮭の卵巣から作られるイクラは、サケの漁獲量や魚価に関連して価格が上下します。このイクラ価格の異常な高騰も、今年のサケの歴史的な不漁に伴うものなのです。
まず、サケの漁獲量日本一の北海道では、歴史的不漁と言われた去年に続く大不漁となっています。北海道内の2020年の秋サケの水揚げは1274万匹となっており、過去最悪レベルだった2019年とほぼ同じ水準です。特に道東の別海町・野付地区では、2019年のわずか36%と壊滅的な状況になっているといいます。
また漁獲量第二位の岩手県でも、前年同時期と比べてサケの漁獲量がなんと6割以上も減少。漁業者は頭を抱えているのだそうです。これらの不漁はいずれも、春先から海水温が急激に上がったことが原因の一つとみられています。(『秋サケが不漁でイクラがピンチ 2~3割値上がりで食卓に上がる?』北海道文化放送 2020.11.1)
影響が長続きする可能性も
今回の不漁は「イクラの価格高騰」だけにはとどまらない可能性もあります。
北海道東部にある標津町では、サケの卵を孵化させ、育てて放流する栽培漁業の事業が行われています。毎年、数年後を見据えて親サケを適切な数捕獲し、稚魚を放流しているのですが、2020年はサケの遡上が極端に少なくなっているといいます。
サケの稚魚は概ね4年後に生まれた川に帰ってくると言われており、仮に今年放流事業を行わなかったとすれば、4年後に遡上するサケが減ってしまうことが予測されます。しかし、現在サケを獲り販売している漁業者の水揚げが伸びず経営が厳しくなっている状況下で、卵の採取のことだけを考えるわけにもいかず、ジレンマに陥っているそうです。
もし今後もサケの遡上が少なければ、他の地域から孵化させるための卵をわけてもらったり、サケ親魚の水揚げの規制を行ったりしなくてはならなくなる可能性もあるといいます。サケ不漁の原因がはっきりしておらず対策が打てない中、厳しい状況は続きます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>