北陸の冬の幸として人気・知名度ともに高い「寒ブリ」。需要が高いため、毎年秋に漁獲量の予測が行われるのですが、今年は県により予測にばらつきがあるようです。
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石川の寒ブリは不漁予測
その名が「脂」に由来するともいわれる高級魚・ブリ。なかでも真冬の寒い時期に水揚げされ、全身に脂がみっちりと乗った「寒ブリ」は、地域によっては年取り魚として扱われる大切な魚です。
そのため水揚げされるいくつかの産地では、シーズン前になると寒ブリの水揚げ予測が行われます。そのうちのひとつ石川県は13日、今期の水揚げ量の予測を発表しました。
予測によると、今シーズンは昨年を少し上回るものの、過去10年平均は下回るとのことでした。予想水揚げ量は300tほどで、これは去年をわずかに上回るものの平年の数値からすると半分ほどしかないといいます。ここ数年は、平年を下回ることが多くなっているそうです。(『ブリ、平年の半分か 県水産センター水揚げ量予想』北國新聞 2020.11.14)
富山はどうなのか
その一方で、「氷見ぶり」などのブランド寒ブリで知られる、隣の県富山県の水揚げ予測はそこまで悪いものではないようです。
県の水産研究所が発表した今シーズンのブリの漁獲量の予想によると、7kg以上(3歳以上)の個体の水揚げは平年並みの140t、やや小さい4kg前後(2歳相当)の個体の水揚げは平年の59tを大きく下回る26tと予想しています。
全体として好漁とは言い難いものの、大型個体の水揚げについては平年並み。(『令和 2 年度のブリ漁況予報』富山県野新水産総合技術センター水産研究所 2020.11.16)ブリは大型個体のほうが脂のりが良くなる傾向があるため、いわゆる「寒ブリ」らしい味わいは味わえそうに思えます。
しかしここで留意しないといけないのは、両県の水揚げ量の差。平年では石川県で水揚げされる寒ブリは富山県のそれと比べ3倍近い差が存在しており、現在の両県の漁況予測が当たれば、全体としては「寒ブリは不漁」ということになってしまいます。
そもそも富山県のブランドとして知られる「氷見の寒ブリ」も、その少なくない量が石川で水揚げされ、氷見で競りにかけられたもの。この2県(更には新潟県も合わせた3県)の水揚げ高は互いにリンクする部分があり、単県ごとの予測で全体を見るというのはなかなか困難が伴うようです。
漁獲予測に差が出たワケ
石川県内の水揚げは、富山湾の水温が高く、さらに能登半島沖の水温が低いほど多くなる傾向があります。今年は能登半島沖の水温が低くないため、ブリの回遊ルートが平年からずれることが予想され、結果として過去10年の寒ブリ水揚げ量平均を下回るという予測になっているそうです。
富山県では過去の研究により、3歳以上のブリについては「山形沖の水温が高く、かつ能登半島沖の水温が低く、その水温差が大きくなる」ほど富山湾で多く漁獲される傾向があることがわかっています。2020年12 月上旬の同海域の水温差は平年とほぼ同等だったため「富山湾の3歳以上のブリ漁獲は平年並み」とする予測となったそうです。
寒ブリの美味しさを知るものとしては、不漁により価格が上がってしまうのは望ましくはありませんが、ここまで発表されているものはあくまで「予測」。ブリ漁の盛期はまだ始まったばかりなので、我々いち消費者としてはヤキモキしながら様子を見ていくしかないでしょう。
予測は難しく大変だろうと思いますが、我々サカナ好きとしてはとても興味深いですね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>