釣り人の間では「臭過ぎて食べられない」と言われているニザダイ。なんと、誰もが知る「アレ」を食べさせるだけで、美味しい魚に変身するのだとか。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
臭いが強烈な「ニザダイ」
「ニザダイ」という魚をご存知でしょうか。地域によってはサンノジという名前のほうが通りが良いかもしれません。
全国の外洋に面した磯に棲息するニザダイは、首都圏や内陸部で姿を見ることはあまりありませんが、釣り師にとってはかなり馴染みのある魚のひとつです。
最大約50cmまで大きくなり、針にかかったときの引きも良い魚なのですが、釣りの世界ではあまり人気がありません。なぜならこの魚、身に強い臭いを持っているからです。
獲れた海域にもよりますが、ニザダイの臭い個体は海藻の腐ったような、あるいはオシッコにも近いような強烈な磯臭さがあり、大物が釣れても喜ばれることはなく「メジナ釣りの餌取り」として迷惑がられています。
この磯臭さは海藻を好んで食べる性質に由来するという人もいて、この習性から「磯焼けの原因」と目され、悪者扱いされてしまうこともしばしばです。
人によっては「美味しい魚」!?
ただこのニザダイ、地域によっては好んで食べられる魚でもあります。確かに磯臭いことを除けば、大きくて捌きやすく、歩留まりも良くて食べやすい魚です。更に特筆すべきはその身質の良さ。ニザダイの身には強い弾力があって締まっており、食べるとコリコリした食感が楽しめます。
釣り人でもその魅力を知る人では、ニザダイが釣れたらすぐに内臓を出してクーラーでキンキンに冷やして持ち帰ります。内臓が特に臭く、これを切り離すことで身に臭みが移るのをある程度抑えることができます。
ただ、これはあくまで釣りの時の話。漁で獲れたニザダイに1匹ずつこの処理を施すのは現実的ではないですし、また魚価的にもそれだけの手間をかけるのは困難です。ニザダイ自体は決して少ない魚ではありませんが、広く流通することがない最大の理由がこれです。
「キャベツニザダイ」は臭くない
さて、そんなニザダイですが、実は人気「寿司ネタ」になる可能性を秘めているようです。
とある大手回転寿司チェーンのバイヤーが、水揚げされるのに利用されないこのニザダイに着目し、商品化を試みたところ、とある「食材」を用いることで美味しくなることがわかったそうです。その食材とは、なんと「キャベツ」。
一見すると海の生き物とは全く関係なさそうなキャベツですが、実は神奈川の三浦半島では、近隣の畑から出る「廃棄キャベツ」をうにの養殖に活用しています。バイヤーはそれにヒントを得て、ニザダイにキャベツを与えてみたのだそうです。
ニザダイが臭いと感じられるのは、筋肉中から「ヘプタン」という物質様の匂いが発せられることが原因です。しかしキャベツを与えられたニザダイを検査した結果、筋肉中のヘプタン臭が軽減されたことが判明したそうです。これはキャベツがニザダイの腸内で消化・発酵される際にヘプタン臭を発しなかったのが理由であると考えられています。
味の評判も上々
更に理由こそはっきりしていないものの、キャベツを与えられたニザダイの身からは柑橘系の甘い匂いも感じられることがわかったそうです。この香りが身質の良さと相まって、ニザダイとは思えないほど美味な味わいに仕上がっているといいます。
これを踏まえ店頭での試食も開催したところ、客からは次々と高評価が寄せられたといいます。今後の商品化にも手応えを感じているとのこと。
海の厄介者ともされるニザダイですが、商品化されれば漁師にも利益が還元され、価値が上がるでしょう。更に磯焼けの防止にもつながるとなればまさに一石二鳥。関係者の期待が高まっています。(『【特集】“○○”を食べさせ臭みが消えた?!厄介魚『ニザダイ』を寿司ネタに!大手回転寿司バイヤーの挑戦』MBSNEWS 2020.10.21)
<脇本 哲朗/サカナ研究所>