水族館の技術力が秋の食卓を救う可能性とは サンマ養殖の実現に向けて

水族館の技術力が秋の食卓を救う可能性とは サンマ養殖の実現に向けて

日本の秋の味覚として親しまれながらも、近年著しい不漁が続くサンマ。「幻の味」とならないために、養殖技術を確立することは果たして可能なのでしょうか。

(アイキャッチ画像提供:ぱくたそ)

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その他 サカナ研究所

不漁が続く秋の味覚・サンマ

2020年の秋のサンマ漁が本格化していますが、今年も記録的不漁が続いています。現時点では、水揚げが最悪だった昨年同時期と比べても2割ほどしか獲れていないといいます。

8月には卸値でキロ1300円超という過去最高の高値をつけ、1尾500円を切れば安いという現状を見ると、とても「庶民の魚」とはいえない存在です。(『サンマ記録的な不漁 8月はキロ当たり1300円超 過去最高水準に』NHK 2020.9.10)

水族館の技術力が秋の食卓を救う可能性とは サンマ養殖の実現に向けて著しい不漁の続くサンマ(提供:PhotoAC)

この不漁にはいくつもの原因があるとされており、乱獲のほかに温暖化や海水温の上昇など、対応が難しい要素も含まれています。根本的な原因もわかっていない以上、来年以降水揚げが復活するかどうかも不透明であり、現状では悲観的と言わざるを得ません。

サンマの養殖は困難

今後我々日本人が美味しいサンマを食べ続けていくためには、他の魚同様に「養殖」をおこなうことが必要なのではないかと言われています。しかし、サンマを飼育することは非常に難しく、いまだ養殖の商業化には至っていません。

そもそもサンマをはじめ、マグロやカツオ、イワシなどのいわゆる「青魚」は回遊性が強く遊泳力の高い魚。餌を求めて大洋を泳ぎ回る魚なので、施設内で飼育すると壁や底にぶつかって傷つき、死んでしまいやすいのです。

水族館の技術力が秋の食卓を救う可能性とは サンマ養殖の実現に向けて青背の魚は回遊性が強い(提供:ぱくたそ)

また、群れで行動する習性があることから、音や光、振動によってパニックが伝播し、暴れまわって弱ってしまうことも。その一方で個別に飼育するとストレスで死んでしまうといい、非常にセンシティブな魚です。採捕や輸送時に死んでしまう個体も多く、これらも飼育の大きなハードルになっています。

水族館の飼育技術が役立つ?

そんな難しいサンマの飼育ですが、実は最近、とある水族館でサンマの飼育に成功し話題となっています。

福島県にある東北地方で最大級の水族館、アクアマリンふくしま。2000年に開館したこの水族館では、地元を代表する水産物として開館当時からサンマの展示をしていました。しかし近年のサンマ不漁に「このままではサンマの展示ができなくなる」と危機感を覚え、本格的な飼育技術の研究をはじめたそうです。

はじめは稚魚の飼育からスタート。水槽全体を黒いカーテンで覆って光の変化を極力なくしたり、水槽内に水流をつけて安定した遊泳ができる工夫をした結果、成魚まで飼育させることができ、さらに産卵させることにまでも成功したそうです。現在では累代産卵(卵から育てた個体を成長させ、また産卵させること)や産卵のコントロールも可能になっているといいます。(『“超困難”サンマの養殖 水族館の繁殖技術がカギに』テレ朝ニュース 2020.9.21)

水族館の技術力が秋の食卓を救う可能性とは サンマ養殖の実現に向けてサンマの塩焼きを未来にも食べられるように(提供:PhotoAC)

サンマは重要な水産資源のため、これまでも卵から孵化した稚魚を育てる実験が行われてきましたが、うまくいっていなかったそうです。それゆえにアクアマリンふくしまの飼育成功は非常にインパクトのある出来事であり、今後養殖の実現化に向けて大きなヒントとなるのではないかと期待されています。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>