昨今、全国各地で問題となっている「磯焼け」。その原因となっている魚を「魚醤」に加工してしまおうという試みが長崎県・五島で行われています。
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五島の新名物「魚醤」
長崎県五島市富江町の鮮魚卸業者が、とあるユニークな魚醤を開発しニュースとなっています。
「五島の醤(ひしお)」というこの商品は、発酵を行うための酵母に、島に自生するヤブツバキの花から取り出した「五島つばき酵母」を使用するなど、島でとれる食材にこだわって作られています。
魚醤特有の生臭さを抑えたフレッシュな香りが売りといい、五島ならではの味を追い求めたということ。しかし、最もユニークなのは実はそこではありません。
イスズミやアイゴを活用
通常はイワシ類やニシンなどの「青魚」を用いて作られることの多い魚醤。しかしこの「五島の醤」で使われているのはイスズミやアイゴなどの白身の磯魚です。
これらの魚は植物食性が強く、磯の海藻がなくなって生態系が貧弱になってしまう「磯焼け」を引き起こす原因となっています。また食味は評価が分かれ、時に磯臭い個体があることから食用として人気が低く、漁で獲れても流通することがないため、漁師にとっては「獲り損」となってしまうものです。
「五島の醤」は、このような魚や、小さすぎるなどの理由で流通に乗らない魚を活用することで、環境保全と持続可能な漁業の一挙両得を目指す商品なのです。(『魚醤で五島の海を守る 磯焼け防止、原料に食害魚 ツバキ酵母で仕込む』長崎新聞社 2020.9.23)
広がる「未利用魚」の活用
このイスズミやアイゴのように、食用としてあまり人気のない魚種や、あるいは獲れる際に魚体のサイズが不揃いだったり、漁獲量が少なくロットがまとまらない、などの理由で出荷・流通されない魚たちは少なくありません。このような魚は「未利用魚」と呼ばれます。
未利用魚は基本的には廃棄されてしまう事が多いのですが、食べられない魚だけではなく、美味で有益なものも多く含まれています。そこで近年、この未利用魚を資源として有効活用しようとする動きが拡大しているのです。
上記・五島市では魚醤のほかにも、ブダイやシイラなどを使ったフィッシュハムの製造が行われています。また流通改善の一環として、静岡では小売店が定置網に入った魚を未利用魚ごと買い上げる、という手法をとっているところもあります。漁師による選別の手間がなくなり、鮮度の向上も図れていて消費者にも好評だそうです。(『トピックス 水産この1年』水産庁)
未利用魚を活用することは、産地の漁師の手取りの向上や、新しい魚介類の消費拡大を可能とします。それはさらに大きな視点で考えれば、食料自給率の向上にもつながっていくということができます。今後、同様の試みがより広がっていくことが期待されています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>