出口が見えないコロナ不況。世界中の観光業にも多大な悪影響を及ぼしていますが、インドのとあるリゾートホテルでは現状を逆手に取ったとある施策が行われ、注目を浴びています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
リゾートプールが『養殖池』に
新型コロナウイルスによる世界経済の混乱は終わりが見えず、国境封鎖や移動禁止令などにより、旅客業、観光業は大きなダメージを受けています。そんな中、インド南部のとあるホテルが、とある「発想の転換」を行っていることで話題となっています。
ケララ州にあるアヴェダ・リゾートは、以前はヨーロッパからの客で賑わう高級リゾートホテルでした。しかし新型コロナウイルスの感染が拡大して以降は封鎖が続いており、経営危機に陥ってしまいました。
そこでホテルでは、なんと使っていないリゾートプールを、一時的に魚用の養殖池に転用することにしたのです。養殖しているのは「パールスポット」という食用魚で、現在4tほど飼育しており、中東などこの魚を好んで食する地域に販売する予定となっているそう。(『プールで魚を養殖、コロナで経営難の高級リゾート インド』AFPBB News 2020.8.25)
パールスポットは「ティラピア」
実はアヴェダ・リゾートでは、以前からレストランでパールスポットを使った料理を提供していました。この魚は「シクリッド」あるいは「カワスズメ」と呼ばれる魚の一種で、南アジアが原産ですが東南アジア各地にも移植されているといいます。
カワスズメは沢山の種類を含む魚のグループで、食味が良いことから広い地域で観光用あるいは食用として広く利用されています。最大種では80cmを超えるまでに成長し、生命力が強く、雑食性で何でも食べ、成長も早い、という理由から養殖も盛んに行われています。
日本では「ティラピア」と呼ばれることが多く、ペットショップの熱帯魚コーナーでその名前を聞いたことがある人もいるかも知れません。
日本では食べられる?
このパールスポットについて調べてみましたが、日本で食用にされることは殆どないようです。しかしカワスズメ(ティラピア)類は、食用魚として販売されることもあります。
熱帯地方に多く生息し、温かい水を好むカワスズメは、もともと日本の環境にはあまり適していない魚でした。しかし食用として日本に移入され、温泉地などで養殖が行われるようになりました。タイに似た白身で代用にも用いられたため「いずみ鯛」という名称で馴染まれていたといいます。
現在ではタイ自体の価格が安くなったことや、食品表示法の改正によってタイ科ですらないカワスズメを「〇〇鯛」の名前で売ることがはばかられるようになった事もあって、店頭ではあまり見られなくなりました。それでも外国からの移住者が多い地域や、アジア系食材を多く扱うマーケットでは売られているのをしばしば見かけます。
沖縄では外来種問題にも
なお我が国内でも、沖縄などの温暖な土地、あるいは温泉の排水が出るような場所ではカワスズメ類が帰化しており、釣りのターゲットや食用に用いられています。ただその繁殖力の強さから要注意外来生物に指定されており、沖縄ではカワスズメ類が河川を占めるような状況になって問題にもなっているそうです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>